Larry Dimarzio ~リプレイスメント・ピックアップを生み出した男~ 11
前回はこちら。
https://www.niconico-guitars.com/html/blog/staffblog/larry-dimarzio-10/
ビルのワインディングマシンを見たラリーは、それをさらに改良したマシンを作り出すことにしました。
ミシンのモーター、カウンター、廃材を使って、なんと電動工具を使うことなく製作。

1週間程度で完成したその新たなワインディングマシンは、これまでかけていた時間の10分の1でピックアップを巻くことが出来るようにになりました。
常に仕事を探していたラリーは、48番街にある”We Buy Guitars”に立ち寄り、オーナーのリチャード・フリードマン(Richard Friedman)に修理が必要なギターがないか尋ねました。

ちなみにリチャード・フリードマンは、楽器経営の一家に生まれ、ヴィンテージのスペシャリストとしても有名な人物。
のちにクリスティーズのエリック・クラプトンのオークションのコンサルタントなど、他にもサザビーやリランドなどの数々の有名オークションの立会いやコンサルタントを務めています。
“We Buy Guitars”にはフルタイムで働くリペアマンがいるようで、修理の必要なギター自体はありませんでした。
そこで”リペアの必要なピックアップはありますか?”と訊ねると、リチャード・フリードマンはピックアップがパンパンに詰まった大きな箱を持ってきました。
ピックアップ一基の修理につき、$6の報酬で手を打ちました。
ピックアップを持てるだけ持って店を後にし、全てのピックアップをリペアして1週間後には店に持ち込みました。
リチャードは満足し、さらにたくさんのピックアップをラリーに預けました。
こうして大量に壊れたピックアップが次々と出てきたので、ラリーは修理するだけでなく実験も始めました。
まずはフェンダーのストラトピックアップ。
回転数の変更、ワイヤーの変更をした時にどのようなサウンドの変化をもたらすのかの実験。
50sのストラトのピックアップを数多く見てきたラリーですが、ほぼ全てのブリッジピックアップに問題を感じていました。
ブリッジピックアップをより暖かく、出力が高く、太いサウンドのキャラクターを変えることを試みました。
可能な限りきつくコイルを巻き、ボビンがプラスチックのカバーにかろうじて収まるようにしました。
実験したものはFender Deluxeでテストし、その結果生じたサウンドの変化と各ピックアップに加えた修正を記録。
一部のピックアップは大きくなりすぎてピックガードを通過できなくなったりと、実験は数か月間続きました。
元々のピックアップを改良することで、モダンなサウンドを目指しましたが、オリジナルのピックアップを制作することに切り替えました。
それは”リプレイスメントパーツ”としてシンプルに元々のピックアップとの交換が可能かつまたすぐに元に戻すことも可能なもので、歪みのサウンドが良いというのポイントでした。
余談ですが、当時のギター業界では良い歪みの音を得るために数多くの噂がまことしやかに囁かれており、”カミソリでスピーカーを切る”や”アンプの音量を限界まで上げてリバーブを追加する”などなど、様々なものがありましたが、こういった方法は小さなクラブ環境でのライブや簡単に機能したりするものではありませんでした。
ラリーにとっての良い歪みの音とは、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックなど、より自然なディストーション・ギター・サウンドでした。(特に1967年のSunshine of Your Loveがお好きなよう)
問題はそのサウンドをどうやって小さなクラブで得ることでした。(アンプの音量を上げることで歪みを得ているので、小さな場所だと音が大きすぎる)
ラリーは実際にManny’sの入荷していた新しいペダルを全て試しましたが、どれも理想のサウンドにすることは出来ませんでした。
ラリーは、製作したリアのストラトピックアップを地元のギターリスト/シンガーのJimmie Mack(ジミー・マック)に試してもらうことにしました。(ジミーはスタテンアイランドのブルース・スプリングスティーンだったそう)
ジミー・マック
https://en.wikipedia.org/wiki/Jimmie_Mack
彼はマーシャルしか使わないので、フェンダーしか持っていないラリーにとっては良いサンプルでした。
ラリーは彼と彼のバンドを行きつけのクラブのオーナーに紹介して、彼らはそこのハウスバンドになりました。
そうして根気よく研究を続けたラリー。
ピックアップの交換回数は20数回にも及びました。(ライブでは最後の曲でたまにシットインさせてもらうことなんかもあったそう)
こうして完成したブリッジピックアップは、世界初の交換用ギターピックアップとなり、のちにラリーの人生を大きく変えるものになりました。
このリアピックアップは”Dimarzio FS-1″。(当初は”The Fat Strat”と名付けたそうですが、”Strat”はフェンダーの商標のため使えませんでした)
Yngwie Malmsteen(イングウェイ・マルムスティーン)はこのピックアップを絶賛。
“U2″のThe Edge (ジ・エッジ)は自身のシグネチャーに搭載。
David Gilmour (デビッド・ギルモア)もかの有名な“Black Strat”に搭載。
等々、数多くの著名ミュージシャンからも愛されるピックアップとなりますが、まだまだこの時点では無名のピックアップ。
~続く~