145『KEEP ON ROCK & DANCE 耕もね』伊藤耕2DAYS
“なんで俺がわざわざ、奴らのツケを払いに行かなきゃなんねぇんだ”
なんて独り言をいったかどうかは
覚えてないけれど、
少しばかり不条理な気分で
竹下通りを歩いていた。
「トシ!溜まっている飲み代を払ってくれないか」
WCのオーナー・石黒から、
悲痛なる連絡を受けて、
店に出向いているのである。
でも、それは、俺のツケではない、
メンバーの酒代なのだ。
犯人は、♪自由が最高なのさ!♪
って声高に歌っているバンドの
ギターとヴォーカルだ。
血液型からいえば、
最強B型コンビにあたるこの2人が、
「マネージャーのトシにツケときゃいいよ」
とでも言ってたのだろう。
それをいい加減なところで
都合良く真に受けた
WC/B型オーナーの石黒が、
「そうだな」
なんてカルく受けて
俺んとこに連絡してきたにちがいないのだ。
まったくお話にもならない。
今回はガツンと文句をば
言ってやろうと思うのだった。
「ヒトを甘くみるのもたいがいにしろぃ!」
って、興奮しながら独り言を
言ったかどうかは覚えちゃいないが、
あっという間に
原宿の外れにあるWCに到着。
勇んでドアを開けたのだった。
「おっ、トシじゃねぇか。これ、見て見ろよ。ほんと、面白れぇぜ。コイツ、天才だな」
カウンターに座っていた伊藤 耕が、
コチラに気づくなり
壁に掛けてあるTVモニターを指した。
まだ新日本プロレスが
ゴールデンタイムに
放送されていた時代である。
画面では古舘伊知郎が
プロレスの実況をしていた。
その言葉がはみ出すようなトークに、
コウが小躍りしながら反応しているのだ。
カウンターの中にいる
石黒も大笑いしている。
コチラに気づいた石黒は、
“わざわざ悪いね”
とでも言うように
小首をちょこんと折りながら、
駆けつけビールを出してきた。
それに応えて
さっそく、カウンターに腰掛け
財布から金を取り出そうとしたら、
「なになに、どーしたんだよ、トシ。ギャラでもくれんのかよ?」
って、コウが寄って来た。
(こーゆーたぐいには鼻がきくのだ)
「ちがうよ、メンバーのツケを払いに来たんだよ」
少しこれみよがし気味に溜息をつき、
ぶっきらぼうに言ってやったら、
「だって、トシが言ったんじゃねぇか、ツケで呑んでいいって。なぁ、石黒」
と、察しが良いコウが
カウンターを乗り出すように
石黒にすり寄った。
「まぁ、あの時のトシは随分と酔っぱらって、調子良かったけどな(笑)」
渡した金を受け取りながら、
石黒は“まいど”
って感じで背を向ける。
“そうか、なんのことなない、俺自身が犯人だったってわけか”
なんて呟いたかどうかは
覚えちゃいないが、
なんだか漠然と想ったものだ。
「信用できないぞ、俺」って。
考えてみれば、僕自身も
典型的なB型はだったのだ。
……………………………………
さて、今年もまた、
『伊藤 耕』を想いながら、
色づく景色を眺める季節がきた。
突然の別れから
2年目の秋になるのだ。
いま、こうして
『フールズ』を思い出しても、
嫌な事のみじんもない。
愉しいコト満載だったって気がする。
冨士夫のバンドメンバーが、
『村八分』『外道』からの
先輩方だったので、
わりと気を遣ったのに対し、
『フールズ』は
リョウとコウが同級生。
カズやマーチンは下級生である。
まぁ、歳は関係ないかもしれないが、
同世代の価値観というのは大きい。
ヴォーカルのコウは詩人で、
『ドアーズ/ジム・モリソン』ばりの
独特なパフォーマーを
想い描いていたようだった。
ご存知のように
『ドアーズ』の意味は、
“知覚の扉”からきている。
このやっかいな理性の弁を、
コウは一生をかけて
こじ開けようとしていたのだろうか。
それはステージだけでなく
私生活においても同様で、
傍でみていると
ずっと高校生のように
若々しく自由に映った。
まぁ、時にはセンスのない
フリーダムも示したが、
そんなこともおかまいなしなのだ。
“良い時も悪い時”も、
常に“伊藤 耕”であろうと
していたのではないだろうか。
それに比べて
ギターのリョウはインテリだ。
頭が良い奴って、
先の先まで読めてしまうので、
結果からモノを言って
周りを混乱させてしまうところがある。
それゆえにリョウは奇抜だった。
突然に怒りに任せて暴れたり、
世間を破壊したりした。
三日三晩、酒を呑み続けたり、
気まぐれに語学を勉強したりする。
もしかすると、
自分自身を持て余していたのだろうか?
「『フールズ』をやるためにさ、酒呑んで、●キメて、アンパンまでやってからスタジオに入ったことがあるんだぜ」
そう笑い話のように
話していたリョウを知っている。
その時は何を言いたいのか
解らなかったのだが、
それほどまでに『フールズ』を
感じたかったのだろう。
本来のリョウは知的で、
ちょっと理屈っぽい皮肉屋だと
僕は想っている。
「いま、フランス語を勉強しているんだ」
と、晩年に伝えてきた。
リョウだったら
すぐに喋れるようになるんじゃないか?
なんて感じていたのを思い出す。
さて、ドラムのマーチンは良い奴だ。
方向音痴でちょっとトっぽい
ところもあるけれど、
彼の存在感で
僕は随分と救われた気がする。
コウは何でもおかまいなしで、
リョウはやたらと結論を迫ってくるので、
僕はマーチンを盾にして
よく2人の追撃をかわした。
マーチンとは、
ほとんどが笑い話しか
交わしていなかった気もするが、
それで通じる間柄
だったのだと想っている。
青ちゃんとジョージが率いる
『ウィスキーズ』の
ドラムもマーチンだった。
去年、
アースダムの『コウ追悼』で
久し振りに出会ったマーチンは、
まったくあの頃と変わっていなかった。
ごく自然なたたずまいに
何故かホッとした覚えがある。
しかし、『フールズ』の核は、
何と言ってもカズだろう。
カズの持つ音楽性が
『フールズ』のサウンドを
作っていたのだと僕は想っている。
そこにコウの詩が乗っかり、
リョウやマーチンのエナジーが
ほとばしっていたのだ。
カズに頼まれて、
(おこがましくも)
僕は『フールズ』のマネージメントをした。
「どうせ、冨士夫が出てくるまでのつなぎだろ!?」
先が見えるリョウは
そう言って皮肉ったが、
実に結果はその通りだったのだ。
若い頃は自分自身に一生懸命で、
周りの“本当”が見えないときがある。
あのとき、
カズが冨士夫と共に
『TEARDROPS』を作ったとき、
自然な流れの中の成り行きだと
何の疑問も感じていなかったのだが、
それは“本当”ではなかった
のかも知れない。
今さら何を言っても
仕方の無い事だが、
心に刺さっている
骨みたいなものなのだ。
10年ほど前だろうか、
Goodlovinのコイワイくんが、
「そう言えばコウさんから、“トシを信用するなよ”って言われたことがありまっす」
と愉しそうに言っていたが、
それはコウの本音だったのだろう。
『フールズ』のカズを
冨士夫とくっつけた責任は
僕にもあるのだ。
…………………………………………
『フールズ』と
一緒に居て愉しかったとき、
不思議なことにコウとよく出会った。
高円寺の居酒屋に行っても、
WCに出向いても、
新宿の69で隠っても、
神出鬼没な存在としてコウが居た。
ある共通の友人の家で遊んでいたら、
やっぱりコウも遊びに来て、
2人して夕暮れの景色の中で
涼んでいたのを思い出す。
そのときの僕らは、
“ジム・モリソン”になって
沈み行く赤い雲を眺めていたのだ。
「トシも脳にジンジンくるのか?」
そう訊くコウの横顔を眺めると、
ずぅっと空を眺めていた。
夕暮れの赤い空は、
いつの間にかに星空になり、
何時間ものときが過ぎていく。
僕らはずぅっとそこにいた。
何も、喋らずに。
何をするでもなく……。
(1984年頃〜)
『KEEP ON ROCK & DANCE 耕もね』伊藤耕2DAYS
10/17(木)新大久保『アースダム』
◆出演/
The Ding-A-Lings
藻の月
瀬川洋&Travelin´ Ocean Bluebirds
イトウコウサンズ
Electric-Noise-Novel
(Nakamura Ruby、EBBY、ナオキjoker、名越藤丸)
Open18:30/Start19:00
adv¥2200/day¥2500(+1D)
問/03-3505-4469
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10/18(金)高円寺『SHOWBOAT』
◆出演/
マンホール
鉄アレイ
FORWARD
THE TRASH
BLACK BLUNNER
(NOBU、ミノル、れいか、ARI、TAVITO、MAKOTO)
Open18:30/Start19:00
adv¥2200/day¥2500(+1D)
問/03-3337-5745