027『プライベートカセット』Just Friend Of Mind
027『プライベートカセット』Just Friend Of Mind
86年の夏真っ盛り、
突然、冨士夫が電話してきた。
「何やってんだよ!トシ!
録音するんだろ、早くやろうぜ!」
そのとき、冨士夫は
すこぶる調子が良かったのだと思う。
シーナ&ロケッツの仕事もひと段落して、
いつになく上機嫌だったのかもしれない。
84年頃から僕らは高円寺に
小さなスタジオを持っていた。
正確には倉庫をアレンジして
音を出せるようにした
プライベート・スペースだったが、
その頃そこを何カ月もほったらかしにしていた。
原因は冨士夫がシーナ&ロケッツのサポートに
加わっていたため時間がなかったからだ。
「このままじゃスタジオが駄目になっちゃうな」
という思いと、
「シナロケとのジョイントがひと段落して、
もっと自分を表現したい」
というストレスが重なって
冨士夫の頭はもう、パンク寸前だった!?
そこで、そのスタジオを使って何の縛りもなく
録音しようということになったのである。
売れようが売れまいが関係ないし、
曲も作りながら録る即興イメージ。
期間も決めずに楽しんでやろうと…。
「俺はさ、すごくリラックスしている時の
冨士夫を知ってるんだ。
そんな時の冨士夫はいいんだ、
いいフレーズが出てくるんだよね。
なんて表現したらいいのかなぁ…、
とにかく特別なんだよ、
他に例えようのない瞬間なんだ」
と、後にTEARDROPSでベースを弾くことになる
カズ(中嶋一徳)も言っているように、
冨士夫のプライベート・シーンでの音は絶品だ。
「デモテープを売っちゃう感じかい?」
と冨士夫が聞いてきたから、そうではなく
「部屋の中で音を出している
いつもの冨士夫を録る感じ」と説明した。
それなら、レコードは作らずに
カセットのみで発売しようということになり、
「飽きたらどうぞ、ほかの曲を
重ねちゃえばって感じだね」
と冨士夫が笑ったのを憶えている。
それにしても金も機材もない。
考え方は自由だったが
録音方法は限られていた。
肝心の録音のための
ミキサーもなかったので、
二人して新宿の楽器屋に買いに行った。
「最初だからこんなモン!」とか言って、
比較的リーズナブルなミキサーを
冨士夫は選んでくれた。
(こういうときの冨士夫は
こちらの懐具合を考えてくれて少し優しい…)
「オレたち、やるときはやるな!」
とか言って冨士夫は喜んでいたけど、
そのときはまだ何もやっちゃいなかった
(こういうことはよくあった。
単純にこれからのことを考えると愉しいのだ)。
4チャンネルのオープンデッキを持っていたので、
これをミキサーとつなげて準備完了。
ちょっと簡単すぎるが、
なにせコンセプトは
プライベートな音作りなのだから。
音作りをするにあたって
パートナーが欲しいと言うので、
チコ・ヒゲに頼んでみた。
電話をするとヒゲは
「え~っ!???…俺がぁ?」とか言っていたが、
次の瞬間はもう冨士夫の横で腕組みをして
何かをイメージしていた(ホント、いいヤツ)。
エンジニアは何でも出来ちゃう天才・古くからの友人、
小林コっぺ(現ジニー紫)に頼んだ。
楽曲は「今日はこの曲な!」とか言って
毎日、冨士夫が持ってきた。
そのほとんどが一発録り。
そこに必要最小限の音をかぶせ、
一曲ずつ仕上げていった。
『誰もが誰かに』から始めたのだが、
しょっぱな、曲終わりまで入れてみて
冨士夫が「どう?」とヒゲにきいた。
ヒゲは腕を組み、宙を向きながら目をつぶり、
少しカッコをつけると静かに応えた…
「風景が見えてこないな…」と。
その一言で冨士夫は大喜び。
小難しいニュアンスより
そんなヒゲが欲しかったって感じだった。
そこで最後までプロデュースを頼むことにした。
『Just Friend of Mind』は
冨士夫の友だち・モッキンの曲。
「人の曲なんだけど大好きな歌があるんだ」
と言いながら奏りだしたのを憶えている。
妙な言い方だけど~歌がうまいな~と、
そのとき改めて思った。
冨士夫のフォークソングは絶品である。
(以下、曲解説は省略)
さて、最後に『飛び出せハイウェイ』を録った。
まだまだエナジー満載ってな感じで、
まさに飛び出すようにスタジオから出たら、
高円寺の阿波踊りイベントの真っ最中!
「これも録って最後に入れよう」
ってことになったのだ。
裏面は『STONE』。
このテープは普段からよく聴いていた。
ホントはもっと長くて、
まるで永遠に部屋の中を流れる
空気みたいに思っていた楽曲。
あれから28年、
また、冨士夫の夏が来た…と思う。
冨士夫の生まれた夏。
冨士夫が先に逝っちまった夏。
そんな28年前の夏に
プライベート・カセットを作った記憶。
「あぁ、あの夏は最高だったなぁ…」
なんて物思いに浸っていると、
突然、電話が鳴った!
「何やってんだよ!トシ!早くやろうぜ!」
……あの声は永遠に忘れない。
(1986年)〜2014年『プライベートカセット』ライナーノーツ より〜
PS/
録音は1986年の8月だから、もう29年も前の、真夏の話である。エアコンもない倉庫のようなスタジオで、扇風機の風にあたって過ごした。冨士夫が作ってくるインスピレーションに合わせて、ヒゲがボンゴを叩く。コっぺが曲のイメージにうんちくをつける。青ちゃんが巧みなスライドを弾いてみんなの喝采を浴び、毎日覗きに来ていたコウが、スタジオに続く階段に影を落としていた。
東洋化成に録音したテープを持っていく時も全員で行ったのを憶えている。そこで、当時流行っていたピクチャー・レコードを見せられ、「おぉっ!レコードの盤面に画像が印刷できるのかぁ!」なんて驚いていた時代だったのが、切ないほどに懐かしい。
カセットが出来上がってきて、別に印刷してあったパッケージを組み立てる時、冨士夫も我が家の食卓にいた。「ホントに最後まで手作りなんだな」っと、嬉しそうにプライベート・カセットを仕上げていた姿を思い出す。そこには、最後まで思いを込めた冨士夫のメッセージがあった……。そんな気がする。
さて、そんな冨士夫の隣で、いつも、おひな様のように笑っていた【エミリ】のバンド、【ダイヤモンズ】のライヴがあります。【11月17日火曜日/クロコダイル】。実に30年?振りのステージだとか。ベースはもとガールズ(といって、わかる人は凄い)のアミちゃん、ドラムは、なんとFOOLSのリハのときに、リョウと一緒に託児所に預けに行ってたときの赤ちゃんだったリキ(早い話/リョウの息子)です。そこにオスが絡むって話。必見です、ぜひ、楽しんであげて下さい。