ギター用ピックアップの世界① ~ワイドレンジ・ハムバッカー編~
こんにちは、スタッフ太田尾です!
みなさんが思い描くトラディショナルなテレキャスターの仕様はどのようなテレキャスターでしょうか。”トラディショナル”という部分に着目すると、おそらく2基のシングルコイルを搭載し1ボリューム1トーンのシンプルな仕様のものになると思いますが、今回はタイトルにもあるようにテレキャスター・カスタム/テレキャスター・デラックスに搭載されたフェンダー社オリジナルの”ワイドレンジ・ハムバッカー”についてのお話しです。
まずはテレキャスター・カスタム、テレキャスター・デラックスについてですが、1972年に登場し、1981年に一度生産を終了したモデルです。ボディシェイプはテレキャスターですが、ピックアップ、ピックガード、コントロール類等たくさんの違いがございます。
1960年後半~1970年初頭のハードロックブームによってレスポール等を始めとするギブソン社製ギターに搭載されたハムバッカーサウンドを求めるギタリストが急増し、ギブソン社の売上は上昇。それまでシングルコイル・ピックアップを中心としたラインナップ/販売戦略を取っていたフェンダー社は対抗策としてギブソン社のエンジニアにしてP.A.F.ハムバッカー開発者”セス・ラヴァー”氏を迎え、フェンダー製のハムバッカー・ピックアップをデザインしました。それがテレキャスター・カスタムおよびテレキャスター・デラックスに搭載される”ワイドレンジ・ハムバッカー”となります。
この”ワイドレンジ・ハムバッカー”は、ギブソン社が販売するギターに搭載されるハムバッカーとはサイズ、構造が共に違います。ギブソン社のハムバッカーは「ポールピースは磁石ではなく、ベースプレートに敷いた平たいマグネットバーとポールピースが接地することでポールピースが磁力を得て、その周りにコイルを巻き磁場を発生させる」という原理ですが、フェンダー社のワイドレンジ・ハムバッカーはそれまでのフェンダー社が製作していたシングルコイル・ピックアップの原理を応用した「ポールピース自体が磁石になっており、その周りにコイルを巻き、磁場を発生させる」という原理になります。
なぜこうした違いが生まれたかというと、フェンダー社のセス・ラヴァー氏への要望に理由があります。フェンダー社の要望は「フェンダーらしいキラキラとした質感を残しつつ高い出力を持ったハムバッカーを製作して欲しい」という内容でした。しかし、シングルコイル・ピックアップの構造を利用したハムバッカーを製作するためにはアルニコ磁石をねじ込み式のポールピースへ加工する技術が必要とされ、当時の加工技術では生産の体勢が整えられなかったため、加工しやすい”クニフェ”と呼ばれる棒磁石を代替品として使用することになります。クニフェとは銅/ニッケル/鉄を配合した合金で、P.A.F.ハムバッカーと同程度のコイルの巻き数ではアルニコ磁石ほどの磁力には及ばず、P.A.F.ハムバッカーと同等の直流抵抗値を得るにはコイルの巻き数を増やす必要があったため、ギブソン社製造のハムバッカーよりサイズが大きくなったと言われています。故に同じハムバッカーという括りではありますが、サウンドにも大きく違いが出る結果となりました。
*なお、現在はクニフェという素材自体が生産終了しており2020年9月にフェンダーが正式に発表したリプレイスメント用ワイドレンジ・ハムバッカー以外にクニフェを使用したワイドレンジ・ハムバッカーの生産はほとんどございません。