[ニコニコ雑記] クリスマス・アルバム 名盤 ~A Christmas Gift For You From Phil Spector~
こんにちは、店長の野呂です。
今年も年末が訪れ、クリスマスが近づいてきました。
当店からほど近い表参道のケヤキ並木では、今年もイルミネーションが開催されているみたいです。
ところで、”クリスマス・ソング”といえば皆さんはどの曲を思い浮かべるでしょうか。
邦楽では、
山下達郎 “クリスマス・イブ”
松任谷由実 ”恋人がサンタクロース”
稲垣潤一 “クリスマスキャロルの頃には”
B’z “いつかのメリークリスマス”
国外では、
John Lennon “Happy Christmas (War Is Over)”
Paul McCartney “Wonderful Christmastime”
Wahm! “Last Christmas”
Mariah Carey “All I Want For Christmas Is You”
などなど、ざっと思い浮かべるだけでも定番ソングがたくさんです。
いずれの曲も街で耳にする機会が多くあります。
クリスマスソングというのはヒットすれば毎年毎年ラジオやTVや各種イベントなどで繰り返し使用されることから、音楽版権の中でも圧倒的な印税収入を誇ります。
中には12月になると毎年チャートの上位に入る曲もありますよね。
2016年に英デイリー・メール紙が発表した情報によると、下記楽曲の1年間の印税収入は下記の通り。
Paul McCartney “Wonderful Christmastime” 約3900万円
Wahm! “Last Christmas” 約4500万円
Mariah Carey “All I Want For Christmas Is You” 約5640万円
これが”1曲”での”1年間”の印税収入なのですから、驚きです。
余談ですが、2002年に映画化もされたニック・ホーンビィの小説”About a Boy”では、父が遺したクリスマスソングの印税収入で働かず自由気ままに生活をする主人公が登場することを思い出しました。
そんな訳で、いろんなアーティストが様々なクリスマス・ソングをリリースするのも納得です。
レーベルにとってもおそらく力を入れたいところでしょう。
かつてよりアメリカではポップスのスターミュージシャンがクリスマスアルバムを発表する例が多くありました。
エルヴィス・プレスリー、ビーチ・ボーイズ、ジャクソン5、カーペンターズなどなど。
そんな中でも今回はクリスマスアルバムの金字塔として知られる大名盤。
63年に発表された“A Christmas Gift For You From Phil Spector”について紹介したいと思います。
こちらのアルバムには”フィル・スペクター”率いる”フィレス・レコード”に当時在籍していた、
”クリスタルズ”、”ロネッツ”、”ボブ・B・ソックス&ザ・ブルー・ジーンズ”、”ダーレン・ラヴ”が参加しています。
往年のクリスマス・スタンダード・ナンバーが13曲収録されたオムニバス形式。
フィル・スペクターといえばでお馴染みの”ウォール・オブ・サウンド”で全曲仕上げられています。
そしてこのアルバムの聴き所もなんといっても、その特異な”ウォール・オブ・サウンド”と呼ばれるサウンド・プロダクションでしょう。
これはもうレコーディング・アート(=録音芸術)の一つの頂点だと思います。
この”ウォール・オブ・サウンド”とは、まだ録音機器が未発達の時代に音圧のある力強い音色を求めて実行されていた制作手法です。
ベース/ギター/ピアノなどをそれぞれ複数用意し、ユニソンで演奏させることで十分な音量と音圧を得ようとしました。
例として、ベース3本、ピアノ3台(エレクトリック/アコースティック/チェンバロetc)、ギター7人という感じです。
さらに驚くべきことに、ベース/ギター/ピアノにホーン隊やドラムスを含めたベーシックトラックは1つの空間で20人前後のミュージシャン達による“一発撮り”だったということです。
(ストリングスやボーカルはオーバーダビングと思われます。)
このことによりそれぞれのパートが渾然一体の音の塊となり、まさしく”音の壁”と感じられるような、それでいて煌びやかなサウンドができあがったのです。
また、レコーディングに使われていた”ゴールドスター・スタジオ”の音響特性も、そのユニークなサウンド・プロダクションに寄与していたと言われています。
天井までたったの3.6メートルほどしか高さのない狭い空間で多人数による同時録音を敢行していたため、本来であれば拾うべきではない音まで録音されてしまい、それが独特なエコーのような効果を生み出していました。
そして”レッキングクルー”と呼ばれるスタジオ・ミュージシャン集団の演奏の素晴らしさも、このアルバムを語る上で欠かせません。
多人数での一発録りというのがとてつもない演奏技量を要することは想像に難しく無いでしょう。
リズムのフィギュアを固めるため、執拗なまでに入念なリハーサルが重ねられていたようです。
この60〜70年代にかけてロサンゼルスを拠点に活動していた”レッキングクルー”は、ほとんどが本来ジャズ畑にいた人たちでした。
このアルバムでもドラムを叩いているハル・ブレイン、このアルバムには参加していませんがモータウンやビーチボーイズのレコーディングで活躍していたキャロル・ケイ(ギター/ベース)の2人が特に有名ですね。
この二人のミュージシャンが関わった曲にはとても好きなものがたくさんあるので、またの機会に取り上げたいと思っています。
ちなみにこのアルバムでは、著名なジャズギタリストとして知られるバーニー・ケッセルも参加しています。
2021年の1月にこの世を去ったフィル・スペクターですが、彼が音楽史に残した影響はとても大きいものでした。
The Beatles / “Let It Be”
John Lennon / “John Lennon/Plastic Ono Band”、”Imagine”、”Rock’n’Roll”
George Harrison / “All Things Must Pass”
Ramones / “End of the Century”
これらのアルバムのプロデューサーも担当しています。
他にもフィル・スペクターがいなければ、The Beach Boys “Pet Sounds”も、大瀧詠一氏の今年で発売40周年を迎えた”A LONG VACATION”も存在しなかったでしょう。
大瀧詠一氏は、自身の葬式にはフィル・スペクター作品の代表曲 The Ronettesの”Be My Baby”を流して欲しいと発言していたほど。
“A Long Vacation”のレコーディング時にはフィル・スペクターと同様のアプローチを試みて、スタジオに入りきらないほどのミュージシャンが集められたと言われています。
これを機にフィル・スペクター関連作品を振り返ってみるのはいかがでしょうか。
今回はこの辺で。