[ニコニコ雑記] フラッグシップモデルから考える”当時の音” ~Part.1 1930~40年代編~
こんにちは、店長の野呂です。
先日、とても嬉しいことに”宇多田ヒカル”さんのニューアルバムが来春発売されると発表がありましたね!
前作”初恋”が発売されたのが2018年6月末でしたので、その間おおよそ4年弱。
待ちわびていました。
鋭意制作中とのことで、完成が楽しみです。
さてさて、話は変わりましてここからが本題です。
恵まれたことに日々楽器屋として”高価な楽器”と接する機会を得られておりますが、
その中でも”フラッグシップモデル”と呼ばれる楽器には各メーカーの強いこだわりが感じられます。
若い頃に憧れだった楽器は当時のフラッグシップモデルだという方も多いのではないでしょうか。
また、メーカーきっての最上位機種というのは発売当時は最先端モデルだったということもあり、
当時の流行の音楽や経済状況などの時代性が表れているものも多い気がします。
そこで今回は、フラッグシップモデル(=最上位機種)を時代とともに振り返ってみたいと思います。
(不定期シリーズもので考えています!)
まずはエレキギターの創世記1930年代から。
エレキギターの登場は諸説ございますね。
しかし、Rickenbackerの“Flying Pan”がカタログに登場したプロダクトとしてかなり初期のものであることに異論はないかと思います。
1931年のカタログに掲載されておりますお値段は下記の通り。
6弦 $140
7弦 $150
弦の数でランクが決まっておりました。
現在の貨幣価値に換算すると、おおよそ¥250,000~¥300,000程度です。
ハワイアンで使うラップスティールには確かに多弦ギターの需要がありますもんね。
カタログにはラップスティールギターしか掲載されていませんが、
スパニッシュスタイルのギターも少数生産されていたようです!
同時にアコースティックの本体にピックアップとボリュームノブがついたモデルも$140で掲載されております。
カタログの謳い文句は、”Controlled volume”とのこと。
生楽器では調節しづらい音量が電気でコントロールできるということが、
当時としては考えられないほど画期的であったのは想像に容易いですね。
歴史を感じます。
さてお次は皆さんお馴染みのGibsonです。
1902年にマンドリンブランドとして登場しておりましたが、
30年以上の時を経てついにブランド初のエレキギターを発表しました。
1937年のカタログに燦然と輝く”New”の文字とともに紹介されているのは、
“ES-150”です!
現代ジャズギターの開祖とされている、チャーリー・クリスチャンの使用で有名なモデルですね!
(のちにこのピックアップはチャーリー・クリスチャンPUと呼ばれるようになります。)
ジャズのリード演奏では、他の管弦楽器やドラムに負けない音量を得るために”エレキ”である必要がありました。
それまで主に伴奏楽器とされていたギターが、メインでソロを奏でるようになった最初の時代です。
ES-150なので、お値段は$150と思いきや… $72.50。
きりが悪い数字ですが、アンプやらケースやらとセットの場合には$150ということでした。
ちなみに同じ値段でハワイアンギター(ラップスティール)も選べます。
1937年のGibsonの他の楽器を見てみますと、
アーチトップギターのフラッグシップ“Super-400”… $400
(この頃はまだピックギタースタイルなのでピックアップは搭載されておらず、エレキではないです。)
最高級マンドリン F-5:$250
最高級バンジョー “All American”:$500
現在の価値に換算すると、
ES-150… $1,392(約16万円)
Super400… $7,683(約87万円)
“All American”… $9,603(約110万円)
ES-150というよりエレキギターというものがまだミドルクラスの楽器でした。
それにしてもバンジョーはお高いですね。
1940年までに上記のメーカーの他にDobro、Vega、Epiphone、Gretschも
エレキギターを開発し、カタログにラインナップしております。
メーカー間での競争も起こってくる頃ですね。
1940年代はエレキギターにもランクやバリエーションが出てくることとなりました。
まずはお馴染みGibsonからですが、
1940年のカタログから3種のエレキギターがラインナップされます。
さてやっと本題、“フラッグシップモデルに見る当時の音楽”にたどり着けました。
記念すべき初、エレキギターとしてのフラッグシップモデルとなったのは
“ES-300”モデルです!
ヘッドにはバインディングが巻かれ、ダブル・パラレログラム・インレイへが入れられるなど、
高級機種らしい豪華なルックスとなっています。
ちなみに以前から存在しておりました”ES-150”はミドルクラスモデルとなり、
廉価モデルとしてL-30スタイルのボディが採用された“ES-125”も誕生しております。
さて当時のお値段ですが、
ES-300 (Regular Finish)… $173.25
ES-300 (Natural Finish)… $183.75
ES-150… $105.00
ES-125… $73.50
ピックアップ無しのSuper400 (Natural)… $336.00
相変わらずエレキギターにおいては、アコースティックアーチトップほどの上位機種は登場しません。
しかし楽器本体には大きな変化があります。
“ピックアップの位置”です。
フロント位置にあったはずが、明らかにリアポジションにスラントで配置されています。
ES-150など他のモデルに関してもピックアップの位置がリア側に下げられています。
さてここから見る当時の思いですが….
“よりブライトなサウンドを求めていた” ということではないでしょうか。
当時からオーディオやラジオもそうですが、
“よりクリアで歪みなく”に進化していったのが音響機材の歴史です。
ロック誕生前であり、歪んだ音がクールという概念がなかった時代だからこそ、
このような方向に進化したのでしょう。
さて次回は50年代、エレキギターが現在の形に近づいた時代です。
ということで次回もお楽しみに。
今回はこの辺で!