[ニコニコ雑記] フラッグシップモデルから考える”当時の音” ~Part.3 1950年代 中・後半編~
こんにちは、店長の野呂です。
またまた前回に続き、フラッグシップモデルと共に時代の音の変化を追いかけてみたいと思います。
今回はソリッドギターが登場し、エレキギターに多様性が出てきた1950年代の半ばからです。
松任谷由美が生まれ、マリリン・モンローが結婚し、ゴジラのシリーズ第1作が登場した1954年。
Fenderから革新的”フラッグシップモデル”が登場します。
カタログに燦然と輝く”True Tremolo”と”Comfort Contoured”の文字。
写真を見た当時のギタープレイヤー等はさぞ驚いたことでしょう。
・3PUのレイアウト
・1弦側だけでなく6弦側も切り取られたダブルホーンのボディシェイプ
・ボディトップ/バックが身体に沿うように削られたコンター加工
今となっては見慣れた仕様ですが、
当時の他社のギターと比較した時に完全に”異形”のデザインです。
全てのアッセンブリを1枚のピックガードにまとめることで、
容易な組み込みを可能としたテレキャスターのデザインをさらに発展させた合理的な設計です。
注目すべきはその新開発のヴィブラートユニット“Synchronized Tremolo Bridge”。
画期的なのはブリッジとテールピースが一体化していることでした。
従来のビグスビーに代表されるようなヴィブラートユニットは、
柔らかな音程変化が得られる一方でダイナミックなビブラートは苦手でした。
また、テールピースが動くことでピッチの変化を得る仕組みだったので、
どうしてもブリッジ上での摩擦は大きくなってしまい、
その分チューニングが狂いやすいという問題点がありました。
シンクロナイズド・トレモロ・ユニットでは、
ボディバックキャビティに設けられた張力の調整が可能なスプリングによりブリッジそのものが稼働することで、
大きな音程変化とチューニングの狂いの少ないヴィブラートを可能にしたのです。
お値段は$249。
テレキャスターよりも高めの値付けですが、機能を見れば納得ですね。
この頃のGibsonはと言いますと、レスポールモデル内でランク付けを始めます。
ここで王座についたフラッグシップモデルは、
”The Fretless Wonder”ことレスポール・カスタムです。
(写真は在庫販売中の“Gibson Custom Shop 2006 Historic Collection 1954 Les Paul Custom Reissue “)
コンセプトは、”タキシードに似合うギター”。
艶のあるブラックフィニッシュ、ゴールド・ハードウェア、ヘッドのダイヤモンドインレイ、大きなブロックポジションマークを採用することで、
まさに上位機種にふさわしいゴージャスな仕様となっています。
さらにはフロントに新開発のアルニコVピックアップ(p-480)を搭載。
そして新開発の”Tune O Matic”ブリッジが取り付けられたことで、
これまで不可能だった”オクターブチューニング”の調整” を実現しました。
お値段はこれまでのソリッドギターで最も高価な$375。
当時のStandardに比べ$130もお高くなっています。
しかしまだ最上位機種はハコモノの帝王Super400で、お値段は$625です。
(なお、53年よりPUが取り付けられ、”エレキ化” しております。)
ソリッドボディの最上位モデルでもまだL-5CN($540)よりお安く、
ミドルクラスのSuper300C($325)よりちょっと高い程のランクでした。
大きな変化が見られたのはGretschです。
これまでのGretschのエレキギターといえば2PUの”Country Club”、
1PUの”Corvette”くらいの選択肢でした。
George Harrisonの使用で有名なDuo Jet($255)やRound Up($325)を抑え、
ソリッドギター(本当はチェンバードですがカタログにはSolidと表記されている)の王座に輝いたのは…
“Chet Atkins Solid Body Guitar PX6121”、お値段$385です!
なんとLes Paul Customを超え当時の最高級ソリッドギターとなりました!
ちなみにカタログには同じくChetのホロウボディPX6120モデルも掲載されており、
同じ$385で売られています。
しかしながらグレッチを代表するフラッグシップモデルは、皆さんご存知のこちらのモデルでしょう。
“世界一美しいギター”とも言われている高級ギターの代名詞”White Falcon”です!
(写真は以前に在庫していた“Gretsch 2018 G6136-55VS Vintage Select Edition ’55 White Falcon”)
お値段はなんと、L-5より高い$600です!(現在の貨幣価値に換算すると、¥700,000程度)
ここで最高級モデルの“Super 400”と”White Falcon”に共通している点ですが、
“ボディがとにかく大きいこと”が挙げられます。
どちらも18インチとかなり巨大です。
”豊かな音色は大きなボディ鳴りから得られるもの”と、
エレキにおいても両ブランドは考えていたのかもしれません。
また、どちらもゴールドパーツが使用されていて、非常に豪華なバインディングが巻かれています。
そしてそして50年代の後半になると、エレキギター黄金期の到来です。
現代リイシューされているのは主にこの時代に作られたギターですし、
ヴィンテージエレキギター市場で最も値段が高いのがこの頃の楽器です。
まずはGibson。
相変わらずフラッグシップモデルはSuper400ですが…、
従来のレスポールの廉価版的位置付けの“Les Paul Special”、”Les Paul Jr.”、
そしてスチューデントモデル”Melody Maker”が登場します!
”Melody Maker”のお値段は$99.50、Les Paul Customの1/4ほどの価格です。
「スチューデントの頃から顧客を育て、大人になったらフラッグシップモデルを買ってもらおう。」
という魂胆です。
きっとFenderも同じことを思ったのでしょう。
1957年のカタログにスチューデントモデル”Duo-Sonic”と”Musicmaster”が登場します。
ストラトキャスターの$274.50に対して、それぞれ下記のような金額でした。
Duo-Sonic…$149.50
Musicmaster…$119.50
そしてお求めやすい価格の商品を発表した翌年の1958年。
ついにストラトキャスターを超える最高級機種が登場します。
GibsonのようにジャジーでメロウなサウンドのギターがラインナップになかったFender。
ここにきてJazzギタリストをターゲットにした新製品を発表しました。
立っても座っても従来よりバランス性に優れたオフセット(左右非対称)のボディ形状が特徴で、
これは後に発表されるジャズベースやジャガーにも受け継がれていくことになります。
お値段はサンバーストで$349.50、ブロンド/ゴールドパーツで$420と、かなり高級です。
何せテレキャスターの倍ほどの価格設定ですからね。
($420は現在の貨幣価値に換算すると、¥460,000程度となります。)
ここから見える当時の音ですが、やはり”Jazz”に使えることが高級楽器の条件と考えられます。
まだまだ“歪んだギター”はおろか、”ロック”が登場する前の時代。
Elvis PresleyやChuck Berryをはじめとしたロックンロールも、
若者からは熱烈な支持を得ていましたが一部からはまだ不良の音楽として煙たがられていました。
60年代に入ろうというところですが、まだ”ロック”が日の目を見るまでは遠そうです。
50年代はギターに関する考え方が今と大きく違うところが面白いところですね。
これからエレキギターが進歩し、時代のニーズを踏まえてさらなる高級モデルが登場していきます。
この不定期特集はまだまだ続きますよ!
今回はこの辺で。