[ニコニコ雑記] フラッグシップモデルから考える”当時の音” ~Part.4 1960年代前半編~
こんにちは、店長の野呂です。
またまた前回に続き、フラッグシップモデルと共に時代の音の変化を追いかけてみたいと思います。
今回はポピュラーミュージックがより市民権を得てきた60年代です。
まずはGibsonから。
62年のカタログを見ると、大きく変わった点が2つございます。
1つ目は、1961年のモデルチェンジに伴い、“Les Paul”が“SG”に移行となりました!
従来のアーチトップの“Les Paul”はいわば廃番となってしまった訳です。
現在は一番高価なヴィンテージギターとしても有名なLes Paul。
しかしサウンドにパワーがありすぎることや、重いことを理由に、
当時は一般的な人気を得るには至りませんでした。
おそらく、パワフルなレスポールを当時のヘッドルームの狭い機材と組み合わせると、
どうしても”歪み”が発生しやすかったのでしょう。
1960年頃でもまだ「歪んだ音がかっこいい」という考え方はありませんでした。
新モデルですが、まだレス・ポール氏との契約が切れていないので、
カタログにも“SG”の文字はなく新しい“Les Paul”モデルとして紹介されています。
(なので初期のSGのロッドカバーには”Les Paul”とあります。ややこしいですね。)
しかしSGのデザインはレス・ポール氏の嗜好に反していたため、
63年にレス・ポール氏とギブソン社の契約は打ち切られることになりました。
(クワガタみたいなのが嫌だったのかもしれません。笑)
それに伴って名称も“SG”(=Solid Guitar)と呼ばれるようになります。
恐ろしく安直な名前ですね。笑
お値段は、
SG Custom…$425
SG Standard…$290
いずれもアーチトップで手間のかかる作りの従来の”Les Paul”と同程度の価格設定となっていました。
マホガニー単板のフラットボディということで、
製作工程や使用している材について考えるとどうしても割高感が否めませんね。笑
ちなみにカタログ上の一番高価なモデルはいまだにSuper400CESN。
ナチュラルフィニッシュ、2PUのモデルが$850でした。
ソリッドギターのフラッグシップモデルの倍もします。
もう1つの大きく変わった点は、カタログの掲載順です!
カタログの最初のページで取り上げられるのが、”Thin Body Electoric”の項目になりました!
以前はSuper400やL-5からカタログが始まっていたのですが、
ついに世間の注目とGibsonの推しはシン(=薄い)ボディへと、よりエレクトリックへと移っていくわけです!
その記念すべき最初の最高級シンボディモデルは“Byrdland”。
Billy ByrdとHank Garlandのシグネチャーモデルで、
“スリム、ファスト、ローアクションネック”、いわゆるショートスケールが採用されています。
続いてFenderですが、62年に”Jazzmaster”を超える最上位機種を発表します。
“Jaguar”です!
「え、B級ギターじゃないの?」って言う声が聞こえてきそうですが、
当時は満を持して発表されたフェンダー社が誇るフラッグシップモデルだったのです。
当時のお値段はなんとサンバーストが$379.50。
ブロンド&カスタムカラーの場合には$398.49とかなり高価です。
(現在の貨幣価値で¥420,000程度)
テレキャスターが$209.50なのを見ると、その差は歴然。
Gibsonの”SG Standard”と比べても$100ほど高いですし、
ほぼ同じ値段で”ES-345”も”ES-175”も買えます。
カタログの宣伝文句によると、新開発の“Wide-Range Pickup”や、
“ブリッジカバーを外さなくてもサステインを短くできるミュート機構”が搭載されています。
フローティングトレモロ&プリセットトーンはジャズマスターの仕様から踏襲され、
ローカットスイッチも盛り込むなど、新しい回路の試みもなされました。
そしてなんと言っても24インチ22Fのショートスケールが採用されており、
必要ならナットワイドも変更できるとの文字がございます。
さて、ここでこの時代のギターの”推しポイント”に着目してみましょう。
まずは、”ジャジーな音”が出ることです。
バードランドはフルアコ構造ならではの”暖かみのあるトーン”を出せます。
ジャガーにはそんなイメージがないように思いますが、実はプリセットスイッチに秘密が隠されています。
こちらには容量の違うコンデンサが採用されており、より一層こもった”甘い音”が出力可能でした。
(これはジャズマスターも同様です。)
実際にジャズギタリストの巨匠、Joe Pass氏が弾いている映像も確認できます。
続いて”ショートスケール”です。
ショートスケールネックは今となっては採用されているモデルは少数派ですが、
弦のテンションが柔らかくなり弾きやすくなると考えられてました。
また、フレット間が短いことで複雑なコードを押さえやすいと考えられていたかもしれません。
“Byrdland”も”Jaguar”もいわばこの時代のトップギタリスト用のギター。
特にアメリカのミュージシャンに関しては、
当時の映像やジャケ写を見ると登場するのはL-5やByrdlandなどのピッカピカの高級フルアコ、
もしくはモデルを問わずGretschユーザーが圧倒的に多いですよね。
Fender使用者でも60年代前半にストラトやテレキャスターを使っている人は意外にも少なく、
当時の映像を見るとJaguar、Jazzmasterの使用者はかなり多いです。
当時流行していたThe VenturesやThe Beach Boysに代表されるサーフミュージックにも、
ジャガーやジャズマスターはピッタリだったことでしょう。
サステインが短いので、深めにリバーブを効かせても歯切れ良く聴こえるメリットがあります!
(実際、ジャガーに搭載されているミュート機構はサーフミュージックの”テケテケ”サウンドを狙っていたのではないでしょうか。)
こうしてエレキギターという楽器が市民権を得てきたことがわかります。
しかし、ギターに伸びやかなロングトーンが求められるようになるまでは、
そして泣きのギターソロが最前線になるまではまだかかりそうです。
そのころ他のブランドはどうでしょうか。
62年のカタログを参照して、”Guild”に注目してみたいと思います。
なんといっても、キース・リチャーズ、ジミ・ヘンドリックス、コーネル・デュプリー、デイヴ・デイヴィスなど、
「キャリアの最初の方で使っていた」率高めなのが、このGuildではないでしょうか。
中でも“Starfire”は様々なギタリストが1度はお世話になったギターでしょう。
それもそのはず、カタログの見出しにもデカデカと”For The Young Artist”とあります。
1962年当時のカタログプライスは、スペック次第で$250~。
箱物が高価だった当時のことを考えると確かに安く感じます。
カタログの宣材写真で大きく取り上げられているのは、定番モデルの”SF-III”。
2ピックアップ、Bigsbyタイプのトレモロ付きで$360です。
そして当時、Guildのフラッグシップに鎮座していたのが、”Stuart X-500”。
デュアルモンドPUを2機載せた17インチアーチトップで、いわば”L-5”のGuild版モデルになります。
1番高いブロンドフィニッシュのお値段は…$595!!
Gibsonで同じ価格のギターはセミアコの最上位モデル“ES-355TD”、
なかなかのお値段ですがやはり”L-5”等を基準にしていくとまだリーズナブルに感じます。
さて、GibsonとFenderはより高級なギターを世に送り出すのか。
GibsonとFenderを超える高級ギターブランドは誕生するのか。
今回はこの辺で。