リプレイスメント・ブリッジ界の最高傑作 Mastery Bridgeについて

こんにちは。
独断と偏見の色濃いタイトルになってしまいましたが、今回は個人的リプレイスメント・ブリッジランキングで堂々の1位に君臨している「Mastery Bridge」について取り上げたいと思います。

長らく議論され続けてきたJazzmaster/Jaguar/Mustangなどのブリッジ・ユニット問題ですが、多種多様な創意工夫の歴史がそのユニットの抱える問題の難解さを物語っているような気がします。
個人的にはMosriteのローラー・ブリッジを搭載したり、MosriteやGretschのローラー・ブリッジの構造をもとにモディファイしたものが登場したあたりが一番胸が躍りました。かの有名な廉価ブランドPhotogenicのMustangにもMosriteと同構造のローラー・ブリッジが搭載されているんですよね(このモデルはMustangなのにフローティング・トレモロが載ってますが…)。
やはり取り沙汰されることが多いのは「弦落ち」でしょうか。目に見えてわかりやすいですし、問題として派手で目立ちますからね。次に「オクターブ・ピッチや弦高の調整」「アーム使用時のピッチの狂い」「様々な箇所への共振」などが続くイメージです。

それでは1つずつ体験談や所感も交えながら取り上げていきたいと思います。

Deimel Guitarworks Firestar (Saturn Lavender)

まずは「弦落ち」についてです。
代表的な対策法としては、純正の”ネジ切り”コマをMustangタイプの溝が若干深く切ってあるものに変更したり、ブリッジをTune-O-Maticタイプのものに換装したり、というところでしょうか。
あとは張力を稼ぐためにジョイント部にシムなどを挟みセット角をつけたりもします。これは対策というよりどちらかといえばセッティング幅を稼ぐための設計時点での工夫ですね。
Mastery Bridgeはというと、弦が通る部分が非常に深く抉られて設計されているので、これではまず間違いなく弦落ちが発生することはないでしょう。実際、Tune-O-Maticでですら弦落ちを引き起こしていた僕のピッキングにも耐えてくれています。
余談ですが、実は弦落ちは太いゲージの弦を張るだけで殆ど解決する、というのは有名な話です。あれらの楽器が登場した当時は今のような「10-46」や「09-42」といった細いゲージの弦が用いられておらず、太い弦の強い張力を前提に開発がなされたため現在の細い弦の張力では構造上耐えられない…と。ストラトキャスターやテレキャスターは開発当初の構造/形状を現代に於いても用いることが出来ていますが、ジャズマスターやジャガーはそれが出来ない…。ある種”らしい”話ですよね。


Deimel Guitarworks Firestar (Saturn Lavender)

次に「オクターブ・ピッチや弦高の調整」についてです。
純正のブリッジでは弦高調整用のイモネジが緩んできたり、オクターブの調整幅も狭め、と現代に於いて真っ当な調整がお好みであれば許容するのが難しい状態ですが、それを改善できるちょうど良いリプレイスメント・パーツがないのも事実。
そこでMastery Bridgeの出番です。個人的には、通常のブリッジでも調整の幅に関しては不満はなかったのですが、Mastery Bridgeの調整のしやすさは流石の一言です。パーツ自体は2連の構造なのですが、それぞれ端にイモネジが付いていて弦高の調整が可能になっています。そうなると2弦と5弦はそれぞれのコマの高さに依存する形になりますね。これが絶妙な設計になっていて、極端なセッティングはできませんが各弦の音量バランスが適当に均され、どこかが妙に飛び出たりどこかが妙に引っ込んだり、ということがなくなるのです。
またオクターブに関しても幅広く調整が可能なので、余程ネックが捻れていたり、極端過ぎる変則チューニングでもない限り問題はありません。

次に「アーム使用時のピッチの狂い」および「様々な箇所への共振」についてです。
純正のブリッジはアーミングに合わせてブリッジ自体が前後する構造なので、アームを使用した後はチューニングがめちゃくちゃに、とよく聞く話ではありますがこれは単なるセッティング不足。フローティング・トレモロを正しくセッティングできていればアーミングでチューニングがめちゃくちゃ、ということは中々起きません。
僕が悩まされていたのは、共振しない位置にしていたブリッジが、前後に動くことによって位置が変わってしまい共振が発生するようになってしまう、という部分です。
その点Mastery Bridgeはまず前後に動かないので位置が変わってしまう心配はありません。また余計な隙間がないので共振も最小限に抑えられます。フローティング・トレモロをカッチリとせずに多少無茶のできる”ゆるい”セッティングにしていても演奏性が損なわれることはありません。
また、Mastery Bridgeの公式サイトには

弦~ボディへの振動伝達にめざましい変化を起こし、生音でも素晴らしい共鳴を得ることができます。

とありますが、確かに生音は大きくなりました。良く言えば音がまとまっていて、Fenderらしい少しまとまりきらない”ラフ”な部分がなくなったように感じられました。
ちなみに、純正のブリッジはアーミングだけでなく幅は微少ながら押弦やピッキングでも動くようになっていて、その辺りの調整でもタッチ感など細かなセッティングの差異を生むことができるようになっています。Mastery Bridgeにはこの部分は扱えないので、もしかしたらここのタッチ感にこだわりのある方には向かないかもしれません…。

設計などの”カッチリ感”が圧倒的な魅力のMastery Bridgeですが、実は僕個人としては見た目の”近未来デザイン感”に惹かれて導入を検討していたのが始まりなんです。そのうちチューニングを少し変則的なものにしたりしているうちにMastery Bridgeしか使用に耐えうるものがなくなってしまったんですよね…。ジャズマスターやジャガーなどのブリッジに問題を抱えた楽器たちにはシビアな半音下げセッティングなども難なくこなしてくれます。
僕が思うに、やはり最大の特徴は「Mastery Bridge自体が非常に完成されていること」だと思います。純正のブリッジには流動的な部分が多く、それも含めて楽器としての良さだと思うのですが、Mastery Bridgeは動かないので、楽器を謂わゆる”決め打ち”で使ったり、極端なセッティングにしたりするのに非常に助けになってくれると思います。くだけた言い方をするなら「寄りかかれる、頼りになる」、そういったものだと僕は思います。

余談ですが、文中に何度も登場している「Mastery Bridge」という呼称ですが、実は社名です。Jazzmaster/Jaguar/Mustangなどに搭載されるパーツの名称は「MASTERY OFFSET BRIDGE」といいます。
Mastery Bridge社の他の商品としては、
・テレキャスター用のブリッジサドルおよびプレートユニット「TELE BRIDGE」シリーズ
・フローティング・トレモロユニット「MASTERY VIBRATO」シリーズ
・ハードテイルのブリッジサドルおよびプレートユニットの「HARDTAIL MASTERY BRIDGE」シリーズ
・Rickenbacker用の「RICK MASTERY BRIDGE M5」
などがあり、本国アメリカではアーティストやミュージシャンなどの個人向けにピックアップやギター本体などの製作も行っているようです。かなり特徴的なデザインになっているので一度個人的に手に取って弾いてみたいです…!

それでは。


Deimel Guitarworks Firestar (Saturn Lavender)

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