Todd Krause ~アーティスト・ビルダー7~
前回はこちら
https://www.niconico-guitars.com/html/blog/staffblog/todd-krause6/
トッドが手がけたアーティストモデルとして有名なものが、David Gilmour(デヴィッド・ギルモア)のブラック・ストラト(シリアルナンバー#266936)。
2019年には当時のワールドレコードとなる397万5千ドル(約4億2600万円)でクリスティーズで売却になったことでも知られる1本です。
余談ですが、124本ものギターを出展したこの日の落札額の総額は約2150万ドルに上り、デヴィッド氏は収益の全てを地球温暖化問題に取り組む団体に寄付したそうです。
1970年5月、デヴィッド ギルモアはニューヨークのManny’s Music(マニーズ・ミュージック)からブラックのストラトキャスターを購入しました。
実はその前に、ピンク・フロイドの3回目のUSツアーの後半で、楽器を載せたトラックごと盗難にあうという事件があり、6週間前にマニーズ・ミュージックから購入していた1本目のブラックのストラトキャスターも同様に盗難されました。
その後、改めて購入したのが前述のストラトキャスターでした。
-アルダーボディ
-貼りメイプル指板
-ホワイトピックガード
-ラージヘッドストック
-4点止めのネック
-68 年スタイルのロゴ
-Fキーチューナー
等を採用していた典型的な69年製のCBSストラトでした。
その後数十年にわたり、非常に多くのコンサートや多くの歴史的なレコーディング (Dark Side Of The Moon、Wish You Were Here、The Wallなど)で使用されることになります。
その間、デヴィットとギターテックのフィル・テイラーの手により、ある種の実験ギターとしてありとあらゆる改造を経験しました。
ちなみにフィル・テイラーは、その改造の歴史を
“Pink Floyd: The Black Strat―A History of David Gilmour’s Black Fender Strat”
という本に書き記しています。
ネックに関しては、21フレットネック、22フレットネック、メイプル指板ネック、ローズウッド指板ネック、通常のナットのネック、ロッキングナットネック等々、ありとあらゆタイプのネックを長い期間をかけて試し続けています。
主たる改造歴は、(下記の他にも多数の改造あり)
- ボディ下端にXLRソケット(キャノン)を設置し、ピックガードにスイッチを追加。
アウトボードのファズを駆動するために付けれられました。(ジャックとスイッチは後に取り外されています)
-トレモロブリッジはフェンダー→ケーラー→オリジナルユニットの順に交換、ブリッジ下(正面から見て)に見えるリペア跡有。
-ミニトグルの追加、(フロントピックアップと他二つのピックアップを組み合わせることを可能にする)
-ミドルピックアップとブリッジピックアップの間にギブソンのPAFを追加(後に削除)
-ピックアップはDimarzioに変更→1978年にSeymour Duncanに交換(現在も同様)
その中でも最も有名な改造は、1974年の夏に取り付けられた黒いピックガード。
これにより”ブラック ストラト”というニックネームが付けられました。
ちなみにデヴィットはこれだけ愛用してきたギターを時折”OKギター”(そこそこのギター)と呼んでいます。
さて、上記のように数々の改造歴を持つギターの復刻にトッドらカスタムショップメンバーは挑むことになりました。
2006年10月、トッドとカスタムショップマネージャーのMike Eldred(マイク・エルドレッド)はイギリスでフィル・テイラーとミーティングをして、レプリカプロジェクトを開始します。
実は、マイクとフィルは旧知の中で、マイクはシャーベルに在籍していた頃に、デヴィッドのために複数のギターとベースのネックを製作していました。
フィルはその当時製作してもらった数々のネックをマイクに見せたそうです。
なんとその中にはマイクの手書きのサインが残されたものもありました。
このギターの製作に際して、非常に悩ましかった点は、
-フィル・テイラーは細部に至るまでの完全再現
-デヴィッド・ギルモアは良心的な値段設定
という主張から生じるジレンマでした。
~続く~