018『皆殺しのバラード』皆殺しのバラード

018『皆殺しのバラード』皆殺しのバラード

冨士夫の映画を観に行った。
ポップコーンとコーラを買う。
すると、観ているうちに
ぽろぽろと色んな想いがこぼれだした。
スクリーンに映し出されるシーンとは別に
頭の奥深くでみんなが動いているように思えた。

冨士夫には二つの顔があるのだと思う。
それも極端なやつ。
笑ったり、怒ったり。
優しかったり、ひどかったり。
欲望の固まりかと思うと、やけに太っ腹。
たよりになる兄さんだと思って油断していると、
ムチを持って追っかけて来るような
信じられない思いをさせられる。

それは、ステージでも同じだ。
「今日はこんなに来てくれてありがとう」
と、観客に感謝しているステージで、
「気に入らねぇんなら、帰ってくれ!」
と、吐き捨てる。
いったい、何があったのだろう?
どこでスイッチが切り替わったのだろうか?
客はめったに出くわさない
緊張したライヴ感を強いられることとなる。

「ライヴがやりてぇんだけど」
が、口癖だった。
いや、本当にステージのことばかり
考えてたのかも知れない。
とくに身体を壊してからは
ステージに上がることが
存在の証だったようにも思えた。
そのくせ、ステージの2週間前
くらいから機嫌が悪くなる。
緊張し始めるのだ。
焦るように曲目を練る。
あげくの果てに
「やっぱり、やらねぇ!」と、くる。
その成り立ちに、
最初は唖然として慌てたが、
次第にみんなで協力するようになった。

「大丈夫だよ、冨士夫」
「この曲は俺にまかせてよ」とか、
冨士夫が厳しくなるほどに
メンバーは優しくなる。

ギターのPちゃんなんか大変だ。
自分のバンド(ブルース・ビンボーズ)の
ヴォーカルがコウ(伊藤 耕)だから、
アッチコッチで、半端な気使いじゃなかっただろう。
聞き上手なPちゃんは、
上手く相手の想いを吐き出させることができる。
音に対しても同じ。
冨士夫の呼吸に合わせて
リズムを刻んでいるかのようだ。

ドラムのナオミちゃんは天使。
ちょっとチカラ強い天使だが、
介護士の資格も持つナオミちゃんは、
冨士夫のことを、公私両面から支えてくれた。
冨士夫を見つめながらドラムを叩く
ナオミちゃんの目を見て欲しい。
なんだか、妙に胸を打つ。

冨士夫が入院したとき、
慌てて、吉田くんがお見舞いに来た。
退院して自宅療養しているところへ
今度はベースギターを担いで来た。
「買っちゃったよ!」って、
ダイナマイツ以来封印していた音を
冨士夫のために解放したのだ。
「温泉で療養しよう」とか言って、
毎月のように冨士夫をクルマに乗せて
連れ出してくれた。
カーステレオには冨士夫の曲が詰まっている。
「いつでも演奏できるようにな」
っと、照れ笑いをする。
部屋の中のソファに二人して腰掛け
ピーターとゴードンの『A World Without Love』
をハモりながら、
「中学生以来だな」と笑い合った。
「二人で初めて演った曲なんだよ」
っと、冨士夫が嬉しそうに説明してくれたとき、
再びステージができるほどに
体調が回復していったのを覚えている。

「カズを呼ぼうぜ」
『TEARDROPS』以来、カズとは会っていなかった。
二十数年振りか……。
だが、ベースの音は健在だった。
立川のスタジオでリハをして
そこら辺の居酒屋で呑んだ。
時間の流れが嘘のようだった。
まるで、今すぐ意気投合して
今すぐ大喧嘩できるくらい遠慮がいらない。
「あん時から思ってたんだけどよぅ」
っと、二十数年の時を経て音を確かめる。
カズは紛れもない音楽家だ。
何をしてても、ずっと音の中にいる。

スクリーンにはその他にも
かけがえのない仲間が映る。
冨士夫が倒れる前に組んでいたユニット、
チコヒゲとレイ。
ジニー紫には、
ドタバタとお世話になった。
黙々とステージサイドで
ギターを弾く川田良の姿に感服したり、
ずっとサポートを続けるエミリの姿に、
目に映らない何本分かの映像を見た気がした。

映画の後半、
冨士夫が『JIROKICHI』の楽屋で
『ダイナマイツ』のころ
米軍のブッキングをしてくれたり、
何かと協力してもらった『ピーター』さんに
語りかけているシーンがある。
その中で「やっぱり、お母さんを探したい」と。
「そうすれば、お父さんの存在も解るかも知れない」
と言っている。

人生は、とめどない。
次から次へといろいろなことが起きる。
その中で自覚がないほどに時がたち、
突然、身体にガタがきたとき、
人はどう立ち向かうのだろうか !?
ましてやミュージシャンである。
『山口冨士夫』なのだ。
対外的にどう自分を表現したらいいのだろう?
自分自身とどう向き合ったら納得できるのだろうか?

僕は、そんな想いで
『皆殺しのバラード』を観た。
映画の終わりに、
観ていたみんなから拍手が鳴った。
たくさんの冨士夫の家族が
テロップで映し流されている。

『お母さん』は見つからなかったけど
良かったのかも知れない。

こんなに冨士夫を憶う人がいて、
こんなに場面を共有できるシーンがあるのだから。

そして、それよりも何よりも、
今日は冨士夫の66回目の誕生日。

『誕生日おめでとう!』

今年も暑い夏がきたね。

 

 

山口冨士夫/皆殺しのバラード

   @FUJIO_MOVIE

ライブドキュメンタリー映画『山口冨士夫/皆殺しのバラード』公式アカウントです。監督:川口潤
8/8(土)〜8/14(金)
シネマート新宿/元町映画館 http://youtu.be/HC7SXRUXQjQ

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