025『ウィスキーズ』フラフラ

025 『ウィスキーズ』フラフラ

今回の主役は、青ちゃん。

青ちゃんは相当に頑固だった。
一度決めたらテコでも動かない。
その点、ある意味、冨士夫は寛容だ。
「冗談じゃねぇよ!」って、強面を決めても、
「わかったよ」って、こともある。
青ちゃんには、そういうことはない。

冨士夫が『RIDE ON!』のレコーディングをする時、
青ちゃんが「FOOLSを辞めてきたから」と言って、現れた。
冨士夫は「何も、辞めてこなくても…」と、戸惑っていたが、
その心意気が、そのままバンド結成になった気がする。
「青ちゃん、江戸っ子だねぇ!」
冨士夫は、いつも、そう声をかけていた。

村八分を辞めるいきさつも単純だ。
あるとき、青ちゃんが「俺のギャラは?」って、
チャー坊に聞いたらしい。
「そんなん、ないわ」って答えるチャー坊に、
頭にきた青ちゃんが、三行半突きつけて
東京に帰ったのだとか。
しかし、チャー坊の実情は、
そんなに単純ではないだろう。
村八分を動かすための資金は、
普段からチャー坊と彼女が出していたみたいだし、
ギャラは経費で消えていたのかも知れない。

だけど、そういうのが青ちゃんはダメだった。
「だったら、ハナっから言ってくれよ!」
そうすりゃ、納得するのである。
青ちゃんは、決してリスクを負わない。
だから、経費とか言っても、ピンとこないのだ。

そのくせ、欲はない。
少ないギャラでもへっちゃらだ。
「ごめんね、客入りがワルくてさ…」
って、申し訳ないギャラを手渡しても、
「これから頑張ればいいじゃん!」って、明るく言い放つ。

欲はないが、金もないので、
僕はとんでもなく怒られたことが、二度ほどある。
一度目は吉祥寺のスタジオ・リハの時、
二度目はクロコのライヴ・リハの時だ。
二度とも、僕が遅れて行ったために、
一銭も持っていなかった青ちゃんが、
メシを食えなかったのだ。
(メンバーに借りればいいのに…って、思うのだが)

花園神社の『酉の市』に偶然出くわして、
青ちゃんを電話で呼んだことがある。
「すぐ行くよ!」って、二つ返事だったのに、
50分待ってても来ない。
1時間になったら帰っちまうぞ!
っと思ってたら、
「よっ!」っと、手を上げてやって来た。
参宮橋近くの自宅から歩いて来たそうな。
開口一番、「一銭も持ってねぇぞ」って挨拶代わりだ。
それでも、こちらはいつものこと、ワルい気はしない。
「なに、喰う?」って聞くと、
「好きなもん頼みなよ!横からつつくからさ」
って、そんな感じ。
遠慮もしなければ、欲張りもしない。
そんなところが、青ちゃんにはあった。
ひとしきり呑んで、喰って、笑うと、
「あ〜、酔っぱらった!気持ちいいから帰るわ、じゃな!」
って、ふらふらと去って行く。
まるで自前の歌のように。

そんな青ちゃんが、
自分でバンドを作ったことがあった。
名前は『ウィスキーズ』と聞いて笑ってしまった。
『IWハーパー』の水割りが大好物で、
ライヴの打ち上げの時の青ちゃんは、
必ず『ハーパーのシングル』を所望したからだ。
おまけに、ジョージ(※1)と組んだと言う。
「これは酒代がかかるぞ」
酩酊して雄叫びを上げる二人の姿が脳裏に浮かんだ。
しかも、レコードまで出すと言う。

「すごいじゃん、ライヴには呼んでね」
と言って怒られた。
「何言ってんだよ、マネージャーなんだよ、トシは」
って、ことだった…。

やってみなきゃ判らないもんである。
『ウィスキーズ』は意外とカッコ良かった。
「あったりめぇだろ!俺がメンバーを選んだんだよ」
って、青ちゃんは江戸弁だったけど、
青ちゃんと ジョージの、
二人のフロントは絶品だったのだ。
それに、スティーヴン・タイラー顔の宮岡(※2)が
ベースで引っ掛ける。
とどめはマーチン(※3)のドラムだ。
『FOOLS』仕込みのテンションは、
いきなりピークに持っていったりするので、
行く先々のPAには、
ドラム中心で調整してもらったりしていた。

4曲入りのシングルを
『S・E・X』レーベルから出して、
関西ツアーに繰り出した。

ちなみに『S・E・X』は『エス・イー・エックス』と読む。
決して『セぇックス!』ではない。
余談だが、『S・E・X』の器材車には、
車のサイド・ボディにどでかく『SEX』と書いてあった。
レーベルを主宰していたケンちゃん(※4)の悪趣味である。
当然、パンクをイメージしていたのだろうが、
一般人は、ピストルズを知らない。
初期の『TEARDROPS』ツアーで京都に行ったとき、
四条河原町辺りの交差点で信号待ちをしていたら、
車の窓を開けて風景を眺めてるエミリに、
「おねぇちゃん、どこでやってるんや?見にいくよ!」
って、オッサンが声をかけてきた。
「バ〜カ!テメエに見せるモノはナンにもねぇよ!」
って返されたオッサン、目をまんまるにして驚いていたが、
車内は大爆笑!
だけど、エミリ想いの冨士夫だけは、
「ストリップじゃねぇんだよ……」
っと、ひとり、ぶつぶつ、怒っていたっけ。

さて、その『S・E・X』車で、
『ウィスキーズ』ツアーに出た。
大阪→京都→名古屋 と廻る定番キャンペーンだ。

大阪では、十三にできたばかりの
『FANDANGO/ファンタンゴ』で演った。
正直、練馬の農村住宅地に生まれ育った身には、
この下町は奇異に映った。
夜中まで子供が走り回って遊んでいる。
昼間から大人が酒を呑んでいるのである。
泊まる宿も、連れ込み風。
狭い入口から入り、廊下をぐるぐる廻って、
すすけた臭いと原色のネオンが窓から差し込む部屋に入った。
この細長い部屋で、全員が雑魚寝である。
ときおり、男女が笑いながら廊下を通る。
ガタガタとうるさい輩もいる。
ガラッ!っと、部屋を開けられて、
「誰かいる〜」って、女がろれってる。
“一体、どうなってんだ?部屋は決まってないのか?”
練馬の農村住宅地出身としては、
まったく“理解不能”だったのである。

しかし、『ファンタンゴ』でのライヴはよかった。
宣伝もしなかったので、客の動員が心配だったが、
さすがに青ちゃん、『村八分』の威力は偉大である。
関西方面の顔見知りの協力もあって、
盛況の入りに、盛り上がった。

次なる京都は『拾得』、青ちゃんの古巣だ。
客のどれだけが、青ちゃんのことを知ってるのだろう?
どうやら僕は、青ちゃんに限らず、
『ウィスキーズ』の連中を軽視していたようだ。
『FOOLS』も『カノン』も、
関西でも割と知れていたのである。
当然のごとく『拾得』の盛り上りに、
僕自身も楽しんでいた。

さて、通常は名古屋から大阪へと西に流れるのだが、
『ウィスキーズ』は逆のコースだった。
最終が名古屋である。
しかし、名古屋の何処で演ったか、
どうしても思い出せない。
なんか、店の前の路上で演っているシーンが
ゆるい頭に浮かんでくるのだが、
それが、この時のシーンだったのか?
誰か、知っている人がいたら教えて下さい。

さて、ステージの場所は思い出せないが、
打ち上げのシーンは覚えている。
「おつかれさま〜」って、居酒屋に入った。
いざ、『ウィスキーズ』の本領発揮とばかりに呑む。
あげくに、朝まで呑むから、
「今日は帰りまへんでぇ〜」っと、始まるのだが、
それは、さておき、
カウンター並びで、青ちゃんにお礼を言った。

「今回は愉しかったよ、ありがとう!」って。

『ウィスキーズ』はメンバーのバランスが良くて、
何の問題もなく楽しめている。
それを味合わせてくれた青ちゃんに、
一杯おごりたくなったのだ。

「ハーパーのシングル呑むかい?」
いつものように聞いてみた。

青ちゃんも上機嫌だった。
空いたグラスをヒョイっと持ち上げて、
珍しく欲張った。

「ああ、それじゃあ、ダブルで頼むわ !?」って。

(1987年)

【(※1)ジョージ 】 元/『自殺』『カノン』、現/『藻の月』のギタリスト。冨士夫のラスト・ステージは『藻の月』のゲストだった。青ちゃん、冨士夫、二人の盟友。

【(※2)宮岡 】 元/『コックサッカーズ』『HOT LIPS』。実家が神社で、その宮司になったという話である。

【(※3)マーチン 】 元/『FOOLS』のドラマー。冨士夫と『カウンター・カルチャー・バンド』で活動していた時期もある。

【(※4)ケンちゃん 】 佐藤ケンジ(ミック・ジャガリコの名で活躍する『The Beggars』のヴォーカルでもある)。主宰する『S・E・X』レーベルでは、『TEARDROPS』の1st も制作した。

PS, お知らせ 【青ちゃんを偲んで“フラフラ”】
歌舞伎町のど真ん中で、『ウィスキーズ』の青ちゃんの相棒、『ジョージ』が出演するイベントが行われます。冨士夫と相棒だった『オス』も出演します。『S・E・X』レーベルを主宰していたケンちゃんも歌うそうです。『スライダース』にいたJAMESがベースを弾き、このイベントで、あろうことか、『S・E・X』レコードが復活するのだとか !? 時間と興味のある方は“フラフラ”と、覗いてみてください。【青ちゃんを偲んで、“フラフラ”の大合唱アリです!】

■S.E.X Records Presents【 Rock & Poll Circuit Vol.1】■
2015/11/6 (Fri)新宿 RUIDE K4(歌舞伎町/風林会館・斜め前)
●Open/18;00 ●Start/18;30 ●Adv 3,500 yen
【チケット/e+ にて発売中】バンド予約あり
■Information  THE BEGGARS official web site    http://the-beggars.com/

【出演】
■HOT STARS One Night Special Band
Vo.佐藤ケンジ (Beggars /Mick Jagarico)
Gt.HAMA (Beggars/ Keith HAMA)
Gt.オス (The Ding-A-Lings /ex.ルージュ)
Gt.ジョージ (藻の月/ ex.ウイスキーズ、CANON)
Ba.JAMES (ex.THE STREET SLIDERS)
Dr.Tatsuya (Beggars/ 茶リーワッツ)
■The Ding-A-Lings
■藻の月
■ニューバビロニアンズ
Vo.Gt.Joe Kids(ex.THE PRIVATES、ランブリンローズ)
■ザ☆ダンス天国

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