026『THE FOOLS ♠1985』空を見上げて
026 『THE FOOLS ♠1985』空を見上げて
FOOLSと付き合うのは愉しかった。
バンドにも幾つかの編成期がある。
僕にとってのFOOLSは、
やっぱりカズがいたときだ。
ファンキーなリズムが性に合ったのである。
カズの父親はドラマー。
母親はダンサーだ。
「ガキの頃からドラムをやらされてさ、
そこは違う!なんて手を叩かれたもんだよ」
なんて話は、呑む度に聞かされた。
カズもまた、つぶしのきかない
人生を送る一人なのだ。
生涯、音楽が離れない。
冨士夫がリハビリ城に行っている間、
1年間という約束でFOOLSを手伝うことにした。
吉祥寺の喫茶店で、カズと会ったのを覚えている。
「その間だけ頼むよ」
と言われて、澄ましたまし顔で受けたが、
内心は、嬉しかった。
「何だよ、1年経ったら冨士夫んとこ戻るんだろ!?
そんな奴、信じられねぇよ!」
って言うリョウとは、高円寺のスタジオ前で
よく待ち合わせた。
まだ赤ん坊だったリョウの息子を、
託児所にあずけてからリハをするために。
そんなリョウは、あるとき、
エミリが我が家に来ているときに、
一升瓶担いで来たことがある。
どんな訳があったのか知らないが、
夜通し、その日本酒を呑み続けて、泣いていた。
こんな時のエミリは優しい。
朝までずっと付き合っていた。
ずっと泣いてるリョウを見て、
ずっと、笑っているのだが…。
マーチンは、わりと時間に遅れて来た。
FOOLSを手伝ったしょっぱなの仕事は
横浜は寿町でのイベント。
そこにマーチンが遅れて来たために、
FOOLSがステージに
上がれなかったことがある。
「ドラムなしでやればいいじゃん」
って、声もあったが、
コウが、断固、拒否したのだ。
それでいて、遅れて来たマーチンを誰も責めない。
仕方がないのだ。
マーチンは息せき切りながら、謝っている。
寿町がどこにあるのか解らなかったらしい。
それじゃ、僕にも責任があるじゃないか、
ってんで、一緒に謝った。
終いにはコウが『今からやらせろよ!』
って、イベントが終了しているタイミングで始まった。
当然、主催者は困惑する。
会場は、客のほとんどははけ、
FOOLSもどきだけが残っている。
そこにコウが上がった。
マーチンやカズも上がる。
ステージ上に残っている器材は
パーカッションだけだ。
それを叩きながら、生歌でコウが歌う、
【自由が最高!自由が最高なのさ!】
いつの間に上がったのか、リョウが客をあおる。
楽器もマイクもないパフォーマンスで、
FOOLSは、この日、最高の演奏をした。
この頃のFOOLSには独特のリズムがあった。
毎日が弾んでいるように見えた。
コウとカズに付き合っていると、
まるで、音の中で呼吸しているみたいな感じだ。
居酒屋のカウンターで、
「ホラッ!あそこのその感じ」
とか、言いながら音の話をしている。
コウがメロディを口ずさむ。
すると、カズがカウンターの端を
指でたたき、リズムを刻む。
それに合わせて、今度はコウが
想いのままに言葉を摘む。
ノって来たところで店を飛び出し、
跳ねるように歩き、
新宿にあった『69』あたりに飛び込むのだ。
そこでひとしきり踊りまくる。
二人とも、ステージのダンスそのもののように、
一心不乱になる。
そのうち、カズが大声で何かを叫んでいる。
コウが『なにっ!』って、
つんざくような音響の中でカズに寄る。
思わず、僕も寄ってみた。
すると、『(曲が)できた!』
って、カズは叫んでいるのだ。
それに合わせて、コウがうなずきながら笑う。
例えば、そんなミュージシャンが良いと思う。
生きている、そのものにリズムがあって、
なんか、信じられる感じだ。
二人とも、明らかに他のミュージシャンとは違っていた。
初めてFOOLSを見たときも、
はみ出している感じだった。
常識では収まらない感じ…。
(まあ、これは、私生活もだったが…)
FOOLSを聴くと、
こっちも、日常から跳び出せた気がしてた。
よく、通勤の電車の中で“FOOLS”を聴いた。
ウォークマンのヴォリュームを目一杯にして、
満員の車輛の中で
ライヴテープを聴いていると、
イヤホンから音が漏れているのだろう、
周りの輩が怪訝そうな顔をしていた。
ガキだったなぁ…
今、思うと ちょっと、恥ずかしい…★
あのとき、FOOLSは
とてもいいところにいた、と思う。
めくるめくエネルギーと、
ほとばしるリズム感の中で
突っ走っている感じだった。
眼前に大勢のオーディエンスが見えている。
そこは、日比谷野音のイベントだった。
ここでイッキにイっちゃおうと思って、
イベント前日の夜、高円寺のスタジオに
FOOLSを押し込めた。
メンバーも張り切ってリハに望む。
だから、アクセルをめいっぱい吹かした、
……はずだった。
だが、何事もアクセルを踏むだけでは
目的地に到着しない。
翌日の朝、機材のピックアップに
スタジオに寄ったら、
なんと、びっくり!
アクセルを踏みっぱなしのFOOLSがいた。
メンバー全員ゾンビのような顔をして、
寝ないでリハをする、その名のごとし…バンド。
らりらりで、スピードのついた
ゾンビたちを会場に連れて行く。
いつ、朽ち果てるかも知れない輩を、
あれやこれやで、
なんとか本番までもたすのだ。
そして……
予想通り、数時間後のステージは、
青く晴れ渡った空を
見上げることにあいなった。
演奏のしょっぱなに、
ギターの音がしてこない。
あわててアンプやシールドを
チェックしたが異常なし。
まさかと思いながら、
怒ったように振りかぶる、
リョウのギターのボリューム・ツマミを
見てみたら、なんと『0』だった。
それを調整した時には、
『時すでに遅し』
もう、コウの音程が半音ずれていた。
コウの特技は、その半音ずれたままで
ステージ終わりまでいけることである。
曲が、よれたテープのように聴こえ、
ノリノリのパフォーマンスが、
白日夢を見ているかのごとく映る。
青く晴れ渡った空に、コウの歌声が染みる……。
“ああ、すっかりいい気持ち、
まるで、羽が生えたようさ……
……………………
空を、空を、空を、 見上げる……”
(1985年 FOOLS )
PS. GoodLovin から、【THE FOOLS On The Eve Of The Weed War】 が届いた。懐かしい顔がそこにある。映像は、僕が知っている FOOLSよりも、1〜2年前のものだ。青ちゃんがいるFOOLSの音源や映像が作品になるのは、今回が初めてだろう。佐瀬もタイトな感じで頼もしい。今回のブログで書いたFOOLSは、この映像のイメージが近い。だが、この頃のほうが若いぶん(と言っても1〜2年だが)とんがって見える。エネルギーが弾けて、どこに行っちゃうかわからない日々を思い出す。その日になってみなけりゃ、良いライヴかどうかもわからない。そんなところも思い出した。いつか、カズに話を聞いて、みんなにも教えたいと思う。
あのころ、あのときの【Freedom】を。