041『気をつけろ』/気をつけろ
041『気をつけろ』/気をつけろ
「東芝EMIと契約する前に出したい曲があるんだ」
と冨士夫は言いだした。
『気をつけろ/まいた種』である。
『なだしお事件』(※1)に
インスピレーションを受けて
作った曲『気をつけろ』は、
まさに冨士夫が伝えたい『歌』だったのだ。
「この曲はインディーズ向きだろ」
そう言うと冨士夫はJam st. 入りをした。
1988年10月18日〜20日の
3日間でのレコーディング。
プロデュースはもちろんチコ・ヒゲだ。
TEARDROPSのシングルとして、
【S・E・X Records】から出すことにしたのである。
権力は常にチカラを持った側にある。
多数決は必ずしも正義とは限らない。
景気や経済がどうであろうとも、
利益は常に権力者の側にあり、
それを生み出すルールが庶民に対して強いられる。
『気をつけろ』は、
そんな社会に対して警鐘を鳴らすものだった。
当時は高景気に国全体が『泡』踊りをしていたから、
踊り手さんたちにこの歌は響かなかったし、
日常レベルでの必要性がなかったのかも知れない。
しかし、今となってみたらどうだろう?
報道の自由までもが脅かされる昨今、
ついに、庶民のデータさえチェックされている。
『気をつけろよ、ベイビー』である。
『ファイルは常に覗かれている』し、
『罠が仕掛けられている』のである。
「それ見た事か!」
遠い処から見下すかのように、
叫んでいる冨士夫の声が聞こえる。
チカラによって作られた組織は、
自由がないほどに頑丈なる牙城を築く。
そして、命令系統によって機能する
危険なマニュアルを生むのだ。
いま、私たちは大切なプライバシーを
チェックされていないだろうか?
いま、私たちは番号で呼ばれ、
ロボットのように管理されていないだろうか?
いま、私たちは平和をゆがめられ、
戦いの準備を始めていないだろうか?
まさか、そんなことはないだろう!?
そんな現実が本当にくるなんて。
考えられないことが起こっているのかも知れない。
それは、たったいまのこと。
まさに、『気をつけろ』…… である。
(1988年/秋)
(※1)なだしお事件/1988年、7月23日、海上自衛隊の 潜水艦『なだしお』が遊漁船 『第一富士丸』と衝突し、第一富士丸が沈没。第一富士丸の乗組員30名が死亡、17名が重軽傷を負った。自衛隊は事故発生時の救助・通報の遅れに不備があったことから批判を受けることになったのだが、あろうことか、艦長らが衝突時の航海日誌を後に書き改め、自らの落ち度を隠ぺいしようとしていたことが発覚。国の組織がいざと言う時に、どう対処するのか、というワカリヤスイお手本を示した。
PS/
ところで、5月4日に
新宿『RUIDO K4』で行われた
『Rock & Roll Circuit Vol.6』を覗いてきた。
1988年当時、今回の『気をつけろ』も発売した
S.E.X Recordsの企画である。
この夜のメインは『ニューバビロニアンズCD発売』
記念ステージだ。
THE BEGGARSのケンちゃんは
『気をつけろ』の時からの付き合い。
文字通り、気をつけながらの関係である。
なかなかに楽しいイベントだった。
『The Ding-A-Lings』や『 藻の月』の
音の良さに改めて快感した。
なんの理屈もなく身体がグルーヴする。
イベントの終わりに、
この夜、出演していた『Grrrl』
(ガールと読むらしい)を指して、
「けっこう、よかったね」とケンちゃんと話していた。
すると、ベースを演っていた姉さんが目の前にいたので、
「こんど、どこで演るの?」
って軽口たたいて聞いてみたのだ。
すると、そのベース姉さん、
それには明確に答えずに
「それより、ワタシ、エミリーの友達なんだけど」
って、返してきたのだ。
「あっ、そう。エミリーの、ね」
別にいいんだけど、
予期せぬ突然の返しにたじろぐオイラたち。
侮れないエミリーの交友関係と情報網。
『気をつけろ』よ、ベイビー。
冨士夫の声が耳の奥でリフレインしていた。