086『不可思議な体験』Funny Day/The Ding-A-Lings
今回のよもヤバ話は少しひん曲がる。
不可思議な体験について話そうと思うのだ。
最初は小学校の低学年の時だったと思う。
自宅の居間で一人遊びをしている時に、
なんともいえない妙な気分に襲われた。
“ボァン”という頭の揺れとともに、
薄い耳鳴りのようなものがしてきたのだ。
「なんだべ?」
ザワザワというサウンドが聞こえてきて、
明らかに目の前の世界とは違うように感じた。
大勢の人が話したり動いたりしているような、
なんともいえない感じ。
視覚的には何の変化もなかったのだが、
聴覚だけが別世界の物音をとらえているようなのだ。
それに伴って脳も揺れている…。
僕は怖くなって畳にうっぷした。
家には誰も居なかったので
気晴らしにテレビをつけていたのだが、
そのテレビの音よりも
別世界の物音の方が上まりつつあったからだ。
うつぶせになりながら、
畳にほほを付けて目を見開いた。
“ ゴキブリだったらこんな目線になるんだろうか?”
そう想ったら何故か落ち着いた。
それでも、相変わらず耳元はザワザワしていたが、
僕はいつの間にか、
そのまま寝てしまっていたらしい。
「こんなトコで寝ちゃ駄目でしょ」
夕暮れ時、家に帰って来た母親の声で目を覚ました。
……………………
2度目は14歳のときだった。
夏休みを利用して、
従兄弟の家に泊まりに行った後の、
タイミングでの出来事だった。
この従兄弟の家で、
僕は生まれて初めてのエクトプラズムを見た。
就寝時に天井を見ていたら、
煙のようなものがふわりと湧き出て、
それが人間の上半身のような
形に変化したかと思うと、
いきなり両手で首を絞めてきたのだ。
驚いて声が出なかった。
不思議と苦しくはなかったが、
死ぬほど怖かった。
やっとのことで声を振り絞って、
隣に寝ていた従兄弟を起こして言った。
「お化けがでたよ」
ソレを7歳年上の従兄弟は鼻で笑った。
そんな馬鹿馬鹿しいハナシ、
相手にするはずがなかったのだ。
僕は仕方なく、
恐怖の中で横に向き直った。
すると、今度は煙が横たわってくるのを感じる。
僕の意識に合わせてくるのだ。
目の前で横に流れて行く煙を見ながら、
“もう駄目だ”と想った。
頭まで布団をかぶリ、
じぃっとするしかなかったのだ。
“布団を剥がしてくる”
そんな煙の手を想像しながら、
恐怖の中で身構えていた。
……そのうちに眠ってしまったらしい。
いつの間にか爽やかな朝になっていた。
馬鹿にされるので、
このことは話さずに従兄弟の家を後にした。
すると、自宅に帰った途端に
家の中がザワザワとしているのである。
まるで違う家族が
パーティでもしているかのようだ。
やはり声のようなものと、
人々が動く物音と気配を感じる。
でも、もう、ほうっておくことにした。
不気味ではあったが、そんなに怖くはない。
すると、現実の家族が順番に帰ってくるころには
この現象は収まっていた。
誰に言っても仕方ないので、
黙っていることにしたのだが、
その晩から僕は、
電気をつけたまま寝ることにした。
暗くすると妙な感じになってしまう。
簡単に金縛りにあうし、
いろいろなことを想像してしまうのだ。
もう二度とエクトプラズムを見たくはなかった。
完全にトラウマになってしまったのだった。
……………………
それでも、高校生になるころには、
いい加減になれっこになってくる。
自宅も新築して僕の部屋は2階に移った。
午前0時を過ぎたころにラップ音がするのだが、
それを友達を呼んで騒ぎながら
一緒に聞いたりしていた。
だから、様々な不思議現象も、
日常の中の普通の風景なのだ。
無いと思い込んでいる世間の方が
不自然だと想うようになってくる。
ところがである。
おかしなことに、結婚をしたら、
それらの現象がパタッと止んだ。
まったくといっていいほど、なくなったのだ。
同時に子供も生まれていたので、
ソッチの方がよっぽど
不可思議だったのかも知れない。
ひとりじゃなければ、
電気も消して眠れるのだ。
環境の変化に別世界は鳴りを潜めた。
ただ、たまに不思議現象のなごりはあった。
深夜残業のあげくにタクシーで帰宅する時、
首都高速の塀の上にあり得ない人影を見た。
タクシーの運ちゃんと二人して、
「見ちゃったね」
とミラー越しに顔を見合わせた記憶がある。
その後に、そうっと家族を起こさないようにして、
部屋に入って休んだのだが、
次の朝、奥さんに
「昨日は誰を連れてきたの? 何人もの足音がしたけど」
とか言われて戸惑った。
そんなこともあったが、
以前の日常に比べれば大したことはない。
得体の知れないザワザワ感も、
すっかりと回数が減り、
“現実の人生の大変さには勝てないんだな”
などと達観していたのである。
そんなとき、知り合いのGが、
「この間、幽体離脱したんですよ」
と、言ってきた。
なんとも面白い奴だ。
神戸出身のヴォーカリストなのだが、
この話は余りにも唐突すぎる。
僕はジッと、奴の顔を見た。
相変わらずデカイ顔だった。
(関係ないが…)
これだけ不思議体験をしている僕ではあるが、
他人の超常現象はすぐには信じない、
といういやらしいところがある。
するとGは言ったのだ。
「違うチャンネルに入ったみたいに、
周波数の違うたくさんの声が聞こえてきたんです」
(あれっ?! オイラとおんなじじゃん)
「それがうるさかったから、
“うっせ〜な”って呟いたら、
突然に耳元で
“なんだよ、聞こえてんのかよ!”って」
それで、す〜っと、幽体離脱したのだという。
はぁっ!? … っで、 ある。
すごすぎる話なのだ。
なんか、完全に負けている。
まぁ、勝とうとも想わないが。
しかし、あのザワザワ感の存在が、
僕だけではないということが解った。
つまり、ソレは在るという事なのだ。
……………………
そして、まるで幽体離脱したかのように時は流れ、
50代になった僕は、
再び冨士夫と時間を共有していた。
その日は、南新宿でグッド・ラヴィンの
コイワイくんと打ち合わせをした後に、
冨士夫の住む羽村に行くことになっていた。
西武新宿駅から拝島行きの電車に乗り、
小平も過ぎて車内が空いてきたころだろうか、
夕暮れ時の、のんびりとした風景が流れている。
…っと、なんだか妙な感じになってきたのである。
胸と頭のあたりがザワザワしてきたのだ。
久々の感覚だった。
しかし、コレはいつもと違うぞ?
自分だけの閉鎖された世界ではない。
(これまでは必ず一人の時に起きていたのだ)
公衆の面前での現象は初めてのことだった。
車輛には数人の乗客が腰掛けているだけなのだが、
次第にザワザワした話し声と、
大勢の人が存在する感覚に包まれていく。
視覚的には黙って腰掛ける
数人の乗客が映っているだけだった。
「コイツは面白いや」
完全に2つの世界が交差している感じだった。
現実の世界にいながらにして、
違う周波数の物音を聞いているような、
トリップ感覚が起きている。
それは、羽村駅を降りても続いていた。
普通に歩いているのだが、
パーティ会場の中を移動している感覚である。
もちろん、現実は羽村の森林風景。
坂道を下り、冨士夫の家を意識してきたころに、
“ このままではまずいぞ ”って気がつく。
この現象を冨士夫は信じてくれるだろうか?
「トシ 、なにか やってんじゃね〜の?」
なんて、ティンガーリングスの
歌みたいなことにならないだろうか?
僕は本来、嘘つきだが、
ほんとうの事を言っても、
信じてもらえない顔つきをしている。
それは自覚しているのだ。
でも、このザワザワ感は、
いっこうに消える気配がない。
なんて、考えながら歩いていたら、
あっという間に冨士夫ン家に到着してしまった。
「今晩わ〜」
気を取り直して縁側の引き戸を開けた。
ちょうど、冨士夫が体調を崩して、
自宅で療養している時期だった。
介護度は『2』である。
そんな冨士夫が介護用のベッドに横になり、
エミリとナオミちゃんが、
甲斐甲斐しく身の回りをサポートしていた。
「久し振り、トシは元気そうだね〜」
そう言う冨士夫の言葉が、
この状況の中で妙にまとわりついてくる。
考えてみれば初めてなのだ。
このザワザワ感の中で現実の人と接するのは。
なんだか、とってもハイな感じ。
こうしているときも、
たくさんの人が行きかっているのが解る。
ただ見えないだけなのだ。
エミリとナオミちゃんは、
『山口冨士夫を支える会』のフライヤーを振り分けていた。
黄色いフライヤーの束に目を落としながら、
冨士夫と僕との会話を聞いている。
“ああ、もう我慢できない!”
「オレ、ちょっと、さっきからおかしくてさ」
思い切って、今のこの状況を3人に説明した。
どうやら、次元の違う世界が僕にはあって、
いま、まさに僕の周りには
ソレがまとわりついていること。
こうしているたった今も、
ここにはたくさんの人が渦巻いていているんだと、
ありのままを伝えてみたのだ。
「コイワイと会って来たからじゃないの〜?」
なんて、エミリが茶化し、
「ソレッて、どーゆーこと? 面白い」
って、ナオミちゃんが好奇の目を向けてくる。
冨士夫も笑っていたが、
3人ともにこの状況を
普通に受けとめてくれたみたいだった。
(さすがに、非日常には寛容な人たちだ)
ようやくホッとして、
この、ラリってもいないのに、
ブッ飛んでいる状況を
受け入れることができたのであった。
「ソレが直るまで休んでいきなよ」
エミリがそう言ってくれたのを憶えている。
その後に何の話をしたのか記憶にないが、
不思議で愉しかった思い出として
僕の中では残っているのだ。
……………………
さて、このザワザワ現象だが、
いったい何なのであろうか?
滅多に起きるものではないので、
日常に支障をきたすものではないのだが、
起きること自体をとても意識してしまうのだ。
4〜5年ほど前になるだろうか。
まだ、タクシーも運転している頃のこと。
吉祥寺駅から、ある若い女性をお乗せした。
よく喋る明るい女性で、
目的地までの数十分間に
様々な刹那なる会話を楽しんだのだが、
その中にザワザワ現象話が
出てきたのである。
そう、その女性も違う周波数の声が
聞こえることがあるというのだ。
しかも、割と日常的にあるという。
興味を抱いた彼女は、
その現象にのめり込んでいったらしい。
「そしたらね、大変なことになりました」
目的地に着き、清算をしているときに、
おつりと領収書を受け取りながら
彼女が忠告をしてくれた。
彼女が言うには、
先日、街中でその状態になり、
半ば、ソチラに集中するようにして歩いていたら、
突然に意識を失ってしまったと言うのだ。
次の瞬間には病院のベッドの上だったらしい。
“そんなことにもなるのか?”
とか思いながら、
タクシーから降りて行く
彼女の後ろ姿に向かってお礼をした。
「いろいろとご忠告、ありがとうございました」
すると、彼女は振り返リ様に、
長い髪を振り払うように会釈を返してきた。
その瞬間の微笑みに、
僕のほうこそ
気を失うところだったのである。
(昔から今)
PS/
ナオミちゃんのバンド『ナオミ&チャイナタウンズ』は、CD発売ツアー中。
6月17日(土)は東京 国分寺MORGANA『第37期 株主総会』
出番は5番目、20時00分~の予定です!
ナオミ&チャイナタウンズNew Album 『キャバレーミュージック』発売中~!
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The Ding-A-Lings
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