098『THE FOOLS/伊藤耕』MR.FREEDOM

ジャガタラのアケミから借りた
真っ赤なギターを抱えて
冨士夫がステージに躍り出た。

真夜中も過ぎ、
明け方近くなった会場は、
にわかにどよめき、
突然に息を吹き返したかのようだ。

ベースのカズ(中嶋一徳)が
冨士夫を振り返って叫ぶ。

「初っぱなはEだから」

冨士夫がうなづくと同時に、
ドラムの佐瀬浩平のビートが始まる。
ギターの青ちゃん(青木真一)とリョウ(川田良)が、
ステージの左右に散らばって開き、
そのド真ん中を耕(伊藤耕)が、
ステージから客席に飛び込む勢いで
飛び出して行ったのだ。

何もかもが躍動するかのような瞬間に、
脳の奥が引っ張られる、あの感じ。
アドレナリンがジュワっと染み出して、
めくるめく興奮状態に入り込んでいく。

1982年12月の法政大学学生会館大ホール。
THE FOOLSの策略により
冨士夫は見事にステージにかり出されていた。
ぶち壊しに来たはずだったのに、
嬉々としてステージに立つ冨士夫を見て、
コチラもノリノリになっていたのである。

このことがきっかけで、
冨士夫は音楽活動を再開したのだ。
FOOLSに青ちゃんがいたからだが、
ある意味、ここから冨士夫と青ちゃんとの
新たなる関係も始まるのである。

このときの冨士夫の存在感には心底驚かされた。
バックステージから眺めていたので、
臨場感が半端なかったのもあるが、
想像を超えたインパクトがあったのである。

しかし、それよりも魅力的だったのは、
正直いって、FOOLSのほうだった。
同世代ということもあるのだろうか、
コチラが欲しいもの、
感じたいものをバッチリ
FOOLSは持っているように想えた。
だから、この瞬間に、
すっかり気に入ってしまったのであった。

情報誌でスケジュールを調べて
そっと、屋根裏やクロコダイルに観に行った。

初めて行ったライヴでのことだ。
リハが終わって一度バンドがはける。
しかし、開演時間になっても
ステージはカラのまま、
FOOLSが現れないのである。
訊くと、ヴォーカルの耕が
サウナに行ったっきり、
帰って来ないのだという。

「まったく、まいるよなぁ」

マネージャーの溝口が、
口を尖らせた魚のような顔で愚痴る。

それでも、楽屋からは
メンバーの笑い声が聞こえてきた。
誰も焦っちゃいないのである。
先刻ご承知なのだろう、
内輪ノリの客たちも適当に過ごしている。
やっとステージが始まったのは
定刻を1時間以上も過ぎてからだった。

それでもステージが始まれば、
すべて“御破算”なのだ。
ファンキーなリズムと同時に
すべての決まり事は水に流されて行く。

♪自由が最高! 自由がサイコーなのさ!♪

まるでアジテートのように叫ぶ
耕の『フリーダム』に、
身体はおろか、心までが震えた。

たったいま、此処にいることが最高に想えた。
音楽とはそうゆうものだ。
なんて、上手くは説明できないのだが、
理屈ヌキの至福感を感じた瞬間だったのである。

それを求めて、またクロコダイルに行く。
すると、その夜はカズがいない。
ダラダラと待ったが、
ついにカズは現れなかった。

「ベースが来ないので今日のライヴは無し!」

耕がステージで宣言して、
その日のライヴは無しになった。
スタッフでも何でもなかったので、
そのペナルティがどーゆーものだったのか、
興味もなければ、憶えてもいないのだが、
機材を片付けてメンバーが店の外に出た時に、
息を切らせて走ってきたカズに出会う。

「ゴメン!飛行機が遅れちゃってよぅ!」

バックパッカーのようなリュックを担いだカズが、
ソバージュ頭をかきながら謝ってきた。
タイに行ってたのだとか。
余裕で間に合うつもりが、
飛行機が遅れてしまったのだ。

「仕方ねぇよ、カズ。乗った便がワルかったな」

耕はひと言も怒るでもなくカズの肩を抱き、

「じゃあ、呑みに行こうぜ!」

と、何事もなかったかのように笑った。
それにつられ、周りも笑いが渦巻き、
そこらにいたバンドの取り巻きと共に、
原宿のハズレにあった『WC?』へと、
くり出すのであった。

この『WC?』を知ってる輩は永遠の仲間だ。
(今となってはね)

なんとなくだが、そんな気がしてくるのだ。
会った事もない輩までも、
ハグしたい気持ちになってくる。

それは実にくだらない空間だった。
(良い意味でね)
バンド連中も多かったが、
アート指向の輩からゴロツキまで、
見事に吹き溜まっていた。

オーナーの石黒が
FOOLSみたいなもんだった事もあるが、
(妙な言いかただが、そうなのだ)
そこら辺の型にはまらない
独特のスペースだったって気がする。

暇な時間に行くと、
耕がテレビでプロレス中継を見ていた。
古館の解説にゲラゲラ笑いながら、
プロレスの面白さをロックに例えて
解説してくれるのだが、
それはとっても単純なのに難解で、
まるで耕の頭の中のようだった。

そんな耕たちを見て、
“こんなバカたちは見たことない”
って、バンドの名前を
『FOOLS』にしたのは青ちゃんだ。

そのくせ、青ちゃんは、

「耕はホントは頭が良いくせに、バカになろうとしてやがる」

とも言っていた。
そうか、バカになるのも大変なんだな。
そんな風に深読みしたのを憶えている。

そのうち、カズに頼まれて、
FOOLSのマネージメントをすることになったとき、
僕は耕を理解しようと努めた。

ちょうどマーチンが
ドラムに返り咲いた時で、
マネージメントのしょっぱなが
寿町でのイベントだった。
そこに、あろうことか
マーチンが遅れて来たのである。

「ドラムなしでなんとか演っちゃおうぜ」

そうメンバーたちを焚き付けたのだが、

「マーチンなしじゃ、FOOLSにならないから」

って、耕が頑として譲らない。
妙に頑固なのだ。
普段はのんべんだらりとしているくせに、
先のクロコでのカズの時もそうだったが、
メンバーに対しての想いは
何よりも最優先する。

イベントスタッフに頼んで
順番をトリに変更してもらったのだが、
それでも、ついにマーチンは
終演時間に間に合わなかったのである。

ところが、会場を片付け始めているところに、
息せき切ってマーチンが現れた。
寿町の場所が解らずに彷徨っていたらしい。

「マーチンが来たから、今から演ろうゼ!」

片付けている最中のステージに
耕が上がって行った。
スタッフの静止を振り切って、
良やカズ、マーチンが続く。
楽器やアンプのないステージで、
残っていたボンゴを
耕が叩きながら歌い始めた。

♪フリーダム、自由が自由が自由が、必要なのさ♪

場外から気楽に見ているのと、
バンドに関わるのとでは大違いだった。

「まったく、まいったなぁ」

ふと、気がついたら、
口を尖らせた魚のようになって
ボヤイている自分がいた。

“こうやって、俺もフールズになっていくんだな!?”

横から怒りまくってくる
イベント・スタッフを尻目に、
なんだか愉しく揺れていたのである。

そんな風だったから、
ますます耕を理解しようと務めた。

ライヴの時は、
耕がどこかに消えちまわないように、
ベタッと寄り添って行動した。

リハ終わりにサウナに行くのを止め、
ライヴ終わりに付き合ったりしたのだ。
環七沿いの高円寺北のサウナで、
よく明け方まで過ごした。

そんな夏のある日、
泥酔してサウナのデカパンを
はいたまま帰宅したことがある。

家にいた家人は、
サウナとトルコの区別がつかなかったらしく、
「いやらしい!」
と、も〜れつに怒った。

「いや、サウナだから。そーゆーとこと、ちがうねん」

何故か関西弁になりながら、
しなくてもいい言い訳をする。
すればするほど信用されない人生は、
たった今も続いているのだが、
この時は証人がいることに気がついた。

「耕もいっしょだから」

それが、逆目に出た。

「やっぱり!」

ということになって万事休すだったのである。
(ワルい事してないのにさ)

まぁ、そんな思い出も今となっては懐かしい。

…………………………………………

そのサウナからさほど離れていない場所で、
先日、伊藤耕の告別式があった。
それは、僕にとっては
考えられない出来事だったのである。

何故か、彼だけは
ずっと生きていく気がしていた。
図々しく、笑いながら、
筋肉質の胸を張って歩く、
そんな耕の姿が脳裏に浮んだ。

あまりに突然だったので、
哀しみもぶっ飛んだまんまに通夜に行き、
居酒屋で呑んだ後に
チャリンコで帰ろうと走っていると、
うっかりと瀬川くんに出くわした。

「おおっ、お前も稲生座に行くんだろ?」

と、通夜の二次会(っていうのか?)への
当然の参加を訊かれ、

「もちろんですよ、いま、向かっているところです」

と、ありきたりに答えて、
行きがかり上、稲生座に行くと、
魚のように尖り口をした溝口を発見する。

そして、なんだかんだと、
あれやこれやと話しながら呑んでいるうちに、
溝口が店のDJ役のスタッフに叫んだ。

「フリーダム、フリーダムをかけてくれ」

それを聞いて思い出した。

まだFOOLSを知って間もない頃、
マネージャーだった溝口が、
たまにライヴのチラシの制作を頼んできた。

広告デザイン会社のデザイナーだったから、
スタッフ気取りで請け負ってやった。

渋谷の喫茶店で待ち合わせて、
出来上がったデザインを渡すのだが、
そんなある時、
思い立ったように溝口が言ったのである。

「フリーダムをCMで使えないかな?」

「あん? なんのこっちゃねん」

「岡本技研のCMでさ、フリーダームって」

「コンドームか?」

「そう、自由が最高、自由がサイコーさ!男に売れるぞー」

それを聞いたとき、
風船のように膨らませた
色とりどりのコンドームが
宙に浮かんでいる絵柄が想い付いた。

そして、改めて想ったのである。

そ−ゆー解釈もあるのか。
俺なんか、まだまだだな。

そう、フールズになる奥深さを痛感したのであった。

(1982〜今)

12月8日に行われるイベントに、
出て来たばかりの耕を誘おうと、
密かにたくらんでいた。

断られるかも知れないが、
上手くいけば
けっこう盛り上ったかも知れない。

耕に関しては、とっても色々あって、
書きつくすことはできない。
また、折をみて思い出しながら
書いてみようと想います。

今は、ただ安楽かに。
やっと得た自由を歌ってください。

合掌

…………………………………………

【山口冨士夫とよもヤバ・スペシャルナイト】

一夜限りのスペシャルライブ&未公開秘蔵フィルム上映

鮎川誠、チコヒゲ、花田裕之、ザ・プライベーツ等豪華ゲスト陣をライブステージに迎え、ライブ&秘蔵映像上映イベントを12/8(金)下北沢GARDENにて開催致します。

フィルム上映は、1986年に渋谷ライブイン等で開催された『シーナ&ザ・ロケッツwith 山口冨士夫』の完全未公開秘蔵ライブ映像、他を予定。そこに、一夜限りのスペシャルライブとして、鮎川誠、ザ・プライベーツ等による冨士夫のカバーを含む、よもヤバステージが行われます。

12/8(金)下北沢GARDEN
Open:18:30/Start:19:00
前売 ¥4500(+1D) /当日¥5000(+1D)

【ライブ出演】

鮎川誠/THE PRIVATES/チコヒゲ/花田裕之 etc.

【フイルム上映/未公開秘蔵映像】

『1986年1月、SHEENA & THE ROKKETS with 山口冨士夫』ライブ
『1986年5月/ 山口冨士夫 &鮎川誠withチコヒゲ リハーサル』
『1997年10月/福生UZU SHEENA & THE ROKKETS(山口冨士夫飛び入りシーン)』etc.

【チケット発売】

チケット発売中⚡️

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シーナ&ロケッツチケットセンターhttp://sheena.cc/ticket/n.php?id=1507708441 … …

 

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